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□久々知(RKRN)
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突然だがおれ、久々知兵助は三度の飯よりも豆腐が好きだ。
そんなおれが豆腐くらい…いや、豆腐以上に好きなものがある。

「おまちどうさまです。お土産用のお団子と大福です」

「ありがとうございます」

ここの茶店の彼女が持ってきてくれる和菓子だ。味が美味しいのはもちろんだけれど彼女が運んでくれるというだけで5割どころか10割増しで美味しくなる。
委員会の後輩たちにお土産を買おうとこの店にたまたま立ち寄ったのは一月ほど前のこと。おれにしては本当に珍しい行動だった。
その時に彼女を初めて見て一瞬にして恋に落ちてしまった。理由は全くわからないけれど本能が彼女だと告げてならなかった。
実を言うと顔立ちの話をするならば、際立って美人というわけではない。おそらく三郎とか勘右衛門あたりなんかは「平凡な女」と揶揄するだろう。それでもおれはこの素朴で可愛らしい彼女に夢中だった。

七日に一度ほどの頻度で店に通う日々。まずは顔を覚えてもらわなければならない。
だというのにおれと言うやつは…彼女に印象づけることなんて出来ないし、むしろ無愛想で覚えられているのではないだろうかと言うくらい素っ気ない態度をとってしまう。
こんな時に八左ヱ門のような人懐こさがあれば…雷蔵のような穏やかな雰囲気があれば…なんて羨んでみてもどうしたって久々知兵助は久々知兵助のままだ。このまま彼女にぶつかってみるしかない。

「あの、もしよろしければお茶でもいかがですか?私が淹れたものになりますが、ご贔屓にしていただいている心ばかりのお礼です」

「え…?」

「あっ、お忙しいようでしたらお気になさらないでくださいっ!」

「あ、いえ、あの、いただきます…」

どうして上手く話が出来ないんだろうか…自分で自分を殴ってやりたい。それにしても彼女が淹れたお茶が飲めるだなんて今日はとても良い日だ。

「こちらでお待ちくださいな」

「は、はい…」

奥の方へ下がっていく彼女の後ろ姿をぼーっと眺めている姿なんて学園の生徒には見せられないな、なんて思いつつこんなときくらいは幸せを噛みしめさせていただく。

「はい、ごゆっくりなさってくださいね」

「……これは?」

「新作の水まんじゅうです。女将さんがせっかくだから味見をして欲しいみたいで…お嫌いじゃないですか?」

「っ、いえ…好き、です」

ーーあなたのことが
だなんて続けることは出来ないおれはまだまだこの茶店で戦わなければならないらしい



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