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□七松
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七松小平太という人はとにかくなんでもいけいけどんどんで細かいことは気にせずにこなしていく人物だ。
そんな彼がなぜか私の働くお店に現れるようになってかれこれ…半年は経つだろうか。
「こんにちは!」
「あ、七松さんこんにちは。今日はどうされました?」
「ここに書いてあるものを買いに来ました」
「承知しました。お預かり致します」
きり丸くんが薬草摘みのアルバイトをしてくれたときにお手伝いとして先輩たち三人が一緒にいらっしゃった。その時の一人が七松さんだ。それで何度か顔を合わせたけれどきり丸くんのために働こうとする年長のお三方はとても優しくて頼もしいなと感じていた。
その後はお使い(あとでわかったけれどお得意様の新野先生のお使いだったらしい)という名目で週に一度くらいの頻度で来店されている。
「あの、店番は暇ではないですか?」
「…?いえ、毎日楽しいですよ?」
「そうですか」
うーんと少し悩んだそぶりを見せる七松さんにこちらが首を傾げたい。ここ半年の付き合いとはいえ割りと頻繁にお会いしている私から見て、こんな風に悩む七松さんは珍しい。
薬草の知識もまだまだな私はもっぱらお店番が多い。七松さんのように買うものが決まってるかたにはそのまま商品を出せるけれど、病状などを聞いてからとなると店の奥にいる旦那様に出てきてもらう。それでも常連様の顔を覚えてくると毎日わりと楽しく過ごしている。そんなに私はつまらなそうな顔をしていたのだろうかもしそうだとすれば改善せねばならない
「いや、ここは少しだけ退屈だと返してくれれば一緒に出掛ける口実になったのになと思ったもので!」
私が考え込んでいるのを見かねてなのか発せられた七松さんの発言は、どう受けとればいいのだろうか。そのまんまの意味で受け取ってしまってもしも間違いだったらすごく恥ずかしい思いをしてしまう。七松さんのことだから本当に裏なく言ってるだけかもしれないし…遊びたい盛りだものね。
「名無しさんさん、返事は頂けないのでしょうか」
「え、返事って…一緒にお出かけ、ですか?」
「どうやら私は名無しさんさんのことを好いているのです。四六時中名無しさんさんのことが頭の中で浮かんでは消えずにまた新たに浮かんで、ずっと考えてしまうのでどうしたものかと思っていたら長次からそれは私が名無しさんさんのことが好きだからそうなるのだと言われたので、まどろっこしいことは抜きにしてとにかく伝えようと思いまして!思い起こせば初めてお会いしたときからずっと焦がれていたようで、つい先日笑いかけて下さった時なんて嬉しくて嬉しくてつい下級生の良い子たちをお手玉にしてはしゃいでしまったほどで…」
「ちょ、まっ待ってくださいちょっと七松さん、展開が早すぎて追い付けない…あの、そんなに赤裸々に語られると私の心臓がもたないです」
「照れた顔も可愛らしいです」
「うっ…」
「そんな風に睨んでも可愛いだけですよ!」
なんだなんだこの怒濤の攻撃(口撃)は…七松さん、急にどうしちゃったんだろう
先程の件は私の勘違いではなく自惚れていい方向であることはわかったけれど、どうして彼が私のことを?訳がわからない
意を決して言葉を発しようと七松さんのお名前を呼んでみるとキラキラとしたまぁるい瞳に見つめられる。うぅ…そらせない
「あのですね、私…七松さんのことはお客様もしくはきり丸くんのお手伝いをしてる優しい方としか思ったことがなくて、」
「名無しさんさんは、」
「…へ?」
「私のことが嫌いですか?」
「えっ…嫌いではないです、けど」
「ならいいです!」
なにが?なにがいいの?七松さん?
混乱する私を置いて、手渡した薬草を持っていけいけどんどんと言いながらいなくなる後ろ姿を見ることしかできなかった。