ディアラヴァ

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あれから夜が明けて、昨日の夜の出来事を反芻してみた。
昨日のイケメンさんが日本人じゃないとしても、不思議な点が多すぎる。まず、彼が下ろしてくれた場所は私の住んでいるマンションの目の前だった。それに加えて彼は確かにあの艶々した唇でこう言った「じゃあな、名無しさん」と。その後「またな」と短い一言も添えて…私は名前を名乗った覚えもないし、「また」なんて単語に使われるだなんて思いもしなかったし、またなんてことがあるのかなぁ


考え事をしていると時間が経つのがとても早くて、もう準備を終わらせて出社しなきゃならない時間になっていた。特に見映えが良い訳でもない適当に作った朝食を食べていつも通りの日常の始まり。

おはようございまーすと挨拶をして自分のデスクに座りお仕事開始。今日は早く終わると良いなぁ…なんだか昨日の出来事で疲れたしさすがに昨日の今日で同じ二の轍を踏むほどバカじゃないです私は。さて、今日も頑張ろう









***

定時間際に同僚に名前を呼ばれて嫌な予感しかしなかった。うん、分かってた。
でも、彼女は先日付き合い始めたばかりの彼がいるわけで。そして今日は彼女の誕生日なわけで。その仕事は彼女じゃなくても私が代わりにできるわけで…ああもう、理由を並べると悲しくなってくる…恋人もいない予定もない私が代わりにやってあげるしかないじゃないか。断れないじゃないか!!

「みょうじさん、ごめんなさい。この埋め合わせは必ずします。」って、埋め合わせされるような状況が私にあるんだろうかなんてぼんやり考えながら「いいですよー」って返事をする。
ああ、こんな自分がすごく嫌。外面だけはいいんだから。

半ばやけになって進めても単純作業とはいえ時間はそれなりにかかって気づけば昨日と同じような時間…大きなため息とともにパソコンをシャットダウンする。未だに残っている上司に挨拶をして退社。昨日と同じ、いつもと同じ。


「おっせぇ。お前、馬鹿だろ」

「え…?」

いつもと違う景色。どうして彼が会社の前にいるの?

「昨日あんな目にあって、んで懲りねえんだよ。あーめんどくせぇ…」

「め、めんどくさいって…というか、どうしてこちらに…?」

「あぁ?迎えに来たに決まってんだろ。」

迎えってどういうことですか外人さん。昨日と同じ、「おら」って言いながら帰路につこうとする彼に開いた口が塞がらない。

「ま、待って!!あの、あなたには色々と聞きたいことがっ」

「んだよ…お前に拒否権はねえ。ほらさっさと歩け。それとも昨日みたいに運ばれないと動けねーのか…?」

くつくつと喉で笑いを零しながらにやついた顔を隠すこともなく近づける外人さん。ちょ、っと顔が…近すぎる…

「そうなら最初っからそういえよ。おら、手ェ出せ。俺は優しいからなァ…リクエストに応えてやんよ。」

「ど、こが優しいんですかっ!?あ、歩きますから…あの、あなたは一体何者なんですか…?」

なんで名前を知ってるの?なんで家も職場も知ってるの?なんでこんなとりえもない私なんかに構うの?色々な問いをすべてこの一言にまとめたつもりだった

「っだよ、質問に答えるとは言ってねーぜ…?まぁいい。俺の名前は無神ユーマ…覚えておけ、お前は俺のために生きてんだ。」

「え、それは…そういう意味…です、か」

ニヤリ笑みをこぼした彼は妖艶で、月明かりがとても似合っていた。けど、流してはいけない一言を突っ込まないわけにはいかない。

「別に、お前が俺のエサだってことだけ覚えておけばいい。まぁまだ収穫段階じゃあねぇけどな。」

野菜はタイミング逃すと鮮度が落ちるのも早くなっちまうからなぁ…なんてこぼしているけど、つまり、私はあなたの…あなたは私のなんなんですか







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