ディアラヴァ
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泣いて、笑って、思いを伝えあって
ユーマさんはなかなか泣き止めない私をしばらくの間抱き締めてくれていた。
その間おでこ、鼻先、頬、唇、首筋…いたずらに触れてくるユーマさんの唇から想いがじんわり染みてくるようで、嬉しいけれどくすぐったかった
「んっ…ゆーまさん、くすぐったいでっ…んぅっ」
「うるせえ。さんざん我慢させられた分、今返してもらうぜ」
え、ユーマさん我慢してた…?何を我慢してたって言うの?き、きすまーくとか付けたくせに…っ
突っ込みは心の中に留めて、ただただ彼の行為を黙って受けとる私も満更ではないんだなぁとぼーっとする頭の中で考えていた。気づけば正面から抱き締めてくれていた両腕にグッと力が入って体が浮く感覚
「んっ…お前、ちっせえからキスすんの大変なんだけど…?」
「なっ…ユーマさんが大きすぎるんで、んっ…」
「さて、移動すっか」
にやり、意地の悪そうな笑みをこぼした彼は私を抱き上げたまま隠れ場と称した小屋の扉をあけた。
前に彼から聞いた話だとシュガーちゃんも常備されたユーマさんのための隠れ家。
外から見たら小さな別荘のようなログハウス調の建物は中も綺麗だった。ユーマさんが部屋を汚くするっていうイメージもなかったけど、必要最低限しか物がない小屋の中はなかなか居心地が良さそうだった。
抱き抱えられたままぼーっと中を見渡してると「いいだろ?ここなら誰も邪魔しねぇ」と嬉しそうなユーマさんの声が届いた
ちょっと時間が経ってくると段々恥ずかしくなってきた。降ろしてほしいと言う意見はうるせえの一言で軽くスルーされてしまい、ユーマさんはそのままソファにドカリと座った。
「ユーマさん…お願いです下ろしてください…むり、むりですはずかしい…。」
「ばーか、今さら離すわけねえだろ?」
横抱きにされながらソファというかユーマさんの上に座らされる体勢になりいよいよ我慢ができなくなって抗議をしてみても当の本人はどこ吹く風
「ん、」
「…?っんむ、ゆ、まさん…っ」
短い一言と共に急に口に入れられたのは彼曰くシュガーちゃんと称された角砂糖。
もともと甘いものは大好きだし、綿あめだとか金平糖も好き。でも、でも…っ!!!
「ユーマさん…さすがに角砂糖そのままは甘いです…」
「あ?甘いからいいんだろ?おら、口開けろ。…ん、いい子だ」
まあ食べられないこともないし、すごく優しい瞳で楽しそうにこちらを見ているユーマさんを見ているとなんだか逆らう気もなくなってしまった。
控えめに開けた口に加えさせられたシュガーちゃんをそのまま食べようとするとストップがかかった。なんだろう…?このままだと砂糖が溶けてしまうのにと思っていたら唇に感じる熱
「んっ…は、うめえだろ?」
やはりシュガーちゃんは甘すぎる
「っ、も…むり…ゆーまさっふ、ぁ…」
角砂糖をくわえさせられて、何度も何度もふってくる口付けにいい加減頭がおかしくなってしまいそうだ。啄むようなものだったのがいつの間にか口内に入り込んでくる彼の舌はとても熱かった。と、同時に私の舌は彼の口内に吸い込まれていった。
水音が脳内に響き渡る。もはや私の耳にはちゅくちゅくと言う厭らしい音とユーマさんの吐息しか聞こえない。
「名無しさん…っ、ん…はっ…!? 」
吸い込まれた舌先に何か尖ったものが当たったのを感じたのと同時に突如離された唇
なんでなのかわからなくって離れた熱を少し寂しく思ってしまった自分がいたことに気付き身体がかぁっと熱くなる。わ、私…なんてことを考えてるのっ…
おでこがぶつかってしまう距離にいるユーマさんはなぜか不機嫌な顔をしていて、何かしでかしただろうかと不安になる。むすっとした顔でじぃっと見つめられ続けるのも居心地が悪い
「ユーマさん…わ、私何か粗相を…し、ましたか…」
キスどころか抱き締められることをユーマさん以外初めてだったから…自分の経験値の少なさがこんなところで凄く恨めしい
「悪ィ…血、出ちまった。」
「え…?」
「俺の牙当たっただろ。」
言われてからじわりと広がる痛みと鉄の味。苦い…苦すぎる。
でも、こうして私が顔を歪めるならまだしもこういうものを好んで飲むであろうユーマさんがなんでそんなに苦虫をつぶしたような表情を見せるのか…
も、もしかして私の血っておいしくないとか…?でも、以前にユーマさんは美味しいって言ってたような…でも先ほどまでのシュガーちゃんを食べていた時の顔とは大違い。どうしよう…
「ゆ、ユーマさん…っ私、その…お、お…美味しくないですか…!?」
「……はァ?」
「だって…そんな表情をさせてしまって…その、あの…ごめんなさい、えと、何が言いたいかというと…私は、血の味とかよくわからないけど、やっぱり…おいしくなかったのかなって…お、美味しい血って、どうすればいいんですか…?」
ポカーンと口を開けたユーマさんを放置して一度零れた不安は止まらない。
自覚してからそんなに時間がたっていないのに、なんでこんなに好きなんだろう。意味が分からない…こんな些細なこと(なのかどうかはわからないけど)で涙が止まらない。なんて面倒な女なんだろう私は
**
「はぁ…名無しさん、こっち向け」
「やっ…だって、酷い顔してます…ごめんなさいユーマさん、ごめ…なさ、い」
ため息までつかれた上に言うことを聞かない。これはユーマさんの嫌いな「めんどくせえ」パターンじゃないだろうかと頭の中では警報が鳴り響いているのにどうしたって、彼の求める理想の自分ではなかったんじゃないかという不安の方が勝ってしまう
「名無しさん、言うこと聞いたらご褒美やるぜ…?」
耳元で急に優しい声が聞こえてぞくりとする背中。それに合わせて背筋もひくっと伸びて自然と彼の方に顔が上がる
「ユーマさん…?」
「お前、本当にバカだぜ…やみつきになりそ…んっ、」
ちゅっちゅっと可愛らしい音を残して啄まれる唇は自分の血の味を忘れるほどに甘い。ピントが合わないほどに間近に見えるユーマさんはとても綺麗で、とても優しかった
「っ、は…駄目だ我慢できねぇ…おら、口開けろよ…?舌、出せ…」
頭の中がふやけてしまって何がなんだか分からない。だけど子供をあやすようにこちらをじっと優しく見つめてくるユーマさんにもっと、もっと誉められたくて言われた通りに動く身体は実に正直だと思う。
震えながら差し出した舌はユーマさんが伸ばしてきた舌に絡められる。口の中で、ではなくそのまま空中で交わされる交わりはなんだか先程よりも羞恥心を誘う気がする。
牙で切ってしまったところをペロペロと舐めてくるユーマさんをぼぉっと見つめていると彼はニヤリと笑い耳元に口を寄せてきた。
「名無しさん、お前今すっげぇエロい顔だぜ。……お前の血、美味すぎて止めらんなくなりそ…っ、んっ…」
吐息と一緒にまるで内緒話をするかのような彼の囁きは私には刺激が強すぎて羞恥心だとか彼の声に耐性がないせいなのかとにかくクラクラしてくる…ユーマさん、急にこんなに甘いなんてズルいです…
「ん、ちゅっ…おら、ふさがったぜ。」
「ふっ、んぅ………え?」
どうやらユーマさんたちには傷を塞ぐ能力が有るらしい。言われてみると確かに吸ったあとにダラダラ血が流れ続けるのも面倒なのかもしれない。だけど、
「ど…して?」
ユーマさんにとって、吸血イコール食事だと思っていたのだけど、私の知ってる吸血鬼の知識は所詮伝説みたいなものだしもしかしたらユーマさん達はもっと普通の現実的な暮らしをできるのかもしれない。
言ったあとになんだか自分がもっとってねだってるように感じて恥ずかしくなった。
「んな物欲しそうな顔すんなよお前本当に淫乱だな。……歯止め、効かなくなったら名無しさんに痛い思いさせちまう。飲むならお前が感じてるエロい顔見ながら甘い血を味わいてえ…だから今日はここまで、な?」
私からしてみれば少し切羽詰まった表情でこちらを見下ろしてくる彼の顔の方がよっぽど甘美で、色気が溢れかえっているように感じる。
俺らしくもねぇって舌打ちする姿すら愛おしい。
「ユーマさん、大好き」
思ったまんまを口にしてみたら少しだけ驚いた表情を見せたあとに穏やかな笑みで抱き締めてくれる彼がいた。
「ばーか、手加減してやんのは今日くらいだからな。俺様は機嫌がいいんだ…次はもっと気持ちいいコト、してやるぜ?」
今日だけでも初体験がたくさんの私にはこれ以上何があるというのか、全く想像もつかないけれど彼が相手だというならばいいやとも思ってしまうほどに気づいたときには溺れていた。
寝る。って短い一言でどかりと横になった彼はもちろん私を抱き締めたままだった。大きめのソファとはいえ二人で寝るには窮屈だけどその分ユーマさんの腕でしっかりと抱かれて心臓が破裂しそうになった。
そういえば彼らは夜行性、なのでは…?吸血鬼の生態については追々考えるとして、すでに寝息をたてた彼を感じてこれは有意義な休日の過ごし方だなぁって思いながら微睡みに落ちていく
ユーマさん、ありがとう
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