ディアラヴァ

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ちょっとした違和感で目が覚めると目の前にはバッチリ目を覚ましているユーマさん。

「……おはようございます…?」

「つってももう夜だけどな。おら、お前の家行くから起きろ」

「ん、行く…ます。」

違和感の正体はユーマさんだったようだ。なぜか彼は肘をたててこちらを向きながら私の首筋だとか頬だとかをつんつん触っている。
寝起きぼんやりしてんなお前…ってユーマさんが呆れるのも無理ないほどに意識がぼうっとしている。中途半端な時間にする睡眠ほど人を堕落させるものはないと思う。そしてその睡眠前にはなんだか甘い時間があったのでそれがますますこのけだるさを助長させている。このままずっとのんびりしていたい。動きたくない…

「ん…時間切れ。このまま行くぞ。拒否権はねえからな。」

「な、ちょ…ユーマさん、ごめんなさい自分で動きます。今すぐ動きますから許してください。」

「却下…と言いたいところだがお前が真っ赤になって照れてるとこを他の奴らに見せんのも癪だな。」

「そ、そんな見苦しいものを私も見せたくないです…お願いします…」

「なら、交換条件だ。」

こんな横抱きにされたままマンションまでつれていってもらうだなんて強靭な心臓を身に付けた覚えはない。特に、ユーマさんは只でさえその容貌からして目立つのだ。普段の帰り道なんかは手を繋いでる(というか引っ張られるに近かったけど)私なんて見えないくらい彼は目立っていた。けど、今の状況は違う。彼の体に被ってしまうと私をフレームアウトさせようにも出来ないじゃないか。
一瞬にして結論にたどり着き勢いよくコクコクと頷いた私を見てユーマさんは笑みを深くした

「なぁ…名無しさん?お前からキス、してみろよ。」

キスという単語を発する瞬間に耳元に近づけてくる辺りがユーマさんのずるいところ。ボフッと沸騰というより爆発に近い音をたてる勢いで私の顔と身体は熱を持つ。きっとトマトのように真っ赤だろう

「くくっ、分かりやすすぎんだよ。おら、早くしろ名無しさん俺はそんなに気の長い方じゃないんだぜ?それともこのまま街中にデートにでも行きたいのか?」

「まっ…!?ゆ、ユーマさんの意地悪…」

誉め言葉だぜってにやつきながら私をそっとソファに下ろして追い詰めてきた彼の頬に意を決してキスを一つ。リップ音がちゅって鳴ってなんともいえない羞恥心を誘ってくる
これでいいんでしょと言わんばかりに勢いよく顔を離そうとしたら後頭部をがしりと捕まれる感覚

「お前はガキか…?なぁ、違うだろ?さっきはもぉっと気持ちいいキス、してやっただろ?こんな風にな…っんん、」

後ろから私の頭を押さえてがぶりと唇にかじりつくユーマさんは言うならば捕食者で、捕食される側は逆らえるわけもない。強引なのにどこか甘いキスに逆らえる人がいるわけもない

「あっ…ん、ぅ…ゆ、まさん、やっ…」

「…いや?嘘つくなよ名無しさん。お前気持ちよすぎて嫌なんだろ?ほら、口開けろよ…」

言葉の合間合間にも落とされる唇に頭がおかしくなりそう
ユーマさんに逆らえる気も逆らう気もしなくて素直に口を少しだけ開けてみる

「お前、ほんっと素直だよな…従順な女は嫌いじゃねえが、俺以外にそんなことしたら殺しちまうかもしんね…っ」

先程よりも深い深い交わりに胸の奥がぎゅうっと捕まれるような気持ちになる。どんなに好きだと言葉にしても足りないくらい、あなたが好きですって伝えたいけど弱気な心はそれを伝えることすらなかなかできない。
狭いソファでいつの間にか逃げ道なんてなくって、ユーマさんの腕の中に閉じ込められる。

「あー離したくねえ。お前このままここにずっといろよ名無しさん。なあ…ずぅっと甘ーく可愛がってやるからよ。人間の世界なんて捨てちまえよ。」

「ユーマさん…?」

「俺はいつでも本気だぜ?欲しいと思ったもんは奪ってでも手に入れてえ。ちっ、なんならこのまま監禁してやりてえくらいだぜ…」

悪魔のように甘く囁くユーマさんだけど、私にはやっぱりそんな度胸はなくてつい口ごもってしまう。
だって、今例えばユーマさんに一生着いていくって決めても私がユーマさんに嫌われたらどうするの?私はどこにいけばいいの?ってネガティブな思想ばかりがよぎる自分が本当に嫌だ。彼を信じたいのに自分が信じられないんだ。自分に自信がないからいつか捨てられるって想像が出てくるんだ。でも今の彼の気持ちは本気だろうし無碍にはできない。

「私、自信ないんです。ユーマさんはどうしてこんな私を好きって言ってくれるのかも分からないし、いつまで続くんだろうって不安に押しつぶされそうです。ごめんなさい…このお返事はもうちょっと待ってください。どうしても今の私には足りないものが多すぎるんです。」

「……謙遜と自虐は違うぜ。お前、なんでそんなに自信ないわけ?俺の前でよくもまあそこまで俺の好きなもんを蔑めるよな…」

眉をきゅっと眉間に寄せてこちらを少しだけ険しく見つめてくる彼が怖くて少しだけ肩をすくめる。ごめんなさいって伝えたくてもまた彼を怒らせてしまいそうで何も言えない。


**


「仕方がねえからお前がお前を愛せない分、俺が愛してやるよ」

ソファでぎゅうぎゅうに抱き締められながら、背筋が凍る思いで怒られるのを待っていたら大きなため息の後に聞こえた言葉。

「人間の中でも特にお前は弱すぎんだよ。名無しさんは俺がいないとダメだって思わせんなよ…やっぱりお前のことこのままずっととじこめたくなっちまう。お前が持っていないお前自身に向ける愛情は俺が埋めてやる。弱気な名無しさんの隣に強い俺がいるくらいが丁度いいじゃねえか。」

そう言い切るとユーマさんは抱き締める力を緩めて空いた隙間から私の顔を覗きこんで、な?って言った。
位置関係は全く変わらないままだけど彼が纏うオーラだとかが先程までとは違い、また優しい表情をして元々あってないようなものだった距離を詰めてきている。

「っておい…だーかーらっんで、泣くんだよ…」

「うっ…ぇ、ご…ごめんなさ…」

「別に悪くねーのに次謝ったら犯すから。」

右目からこぼれた涙を親指の腹で優しく掬い、左側はちゅっと言う音と一緒に目尻を吸われる。なんともサディスティックな笑みを浮かべて嬉しそうに物騒なことを言う。ユーマさん、表情と態度と言葉が矛盾してます…。
相手がユーマさんならって思い始めている単純な考えには気づいていたのだけど、とりあえず開けばすぐにでも謝罪しそうな口をさっと手で塞ぐ。

「何してんだよ。昨日みたいにまた怪我すんぞ。――お前の声、もっと聞かせろ…いい声で啼けよ?」

「っ、あ…」

「おーいい眺め。たまんねえ…優しく愛してやるってのも嫌いじゃあねえが、お前は乱暴な方がいいのか…?」

口必死に塞いでいた両手を捕まえられて頭上に纏められるとますます逃げ場なんてなくなっていて、意地悪な瞳とバチリと視線が交わる。
元々、感じてはいたことだけどユーマさんはサディスティックな方でさっきまでが優しすぎたんだと思う。
さっきまでの甘い甘いユーマさんも大好きだけど、甘くて苦いカラメルソースのような通常運行なユーマさんも大好き。

「跡、残ってんな…絶対隠すなよ?…ん」

「んゃ…あっ…」

ワンピースなんて着てきてしまったから片側の肩紐をずり下げられていとも簡単に胸元が露になる。
昨日と同じように彼がつけた跡の上にもう一度キス。ぺろりとなめた後に印をつける色っぽすぎる姿を直視するなんて出来ないのにユーマさんは無理矢理こちらを向かせようとしてくる。

「うー…んっ、や、ゆーまさっ…ん」

「ん、ちゅ…血だけじゃなくて肌まで甘いな…あー駄目だくそっ…今日は帰してやんねえ。狂っちまうくらい気持ちイイことしてやるぜ…?」

「あ…っ、ダメ…だ、めです…んぅ、」

今いったい何時なのかが全く分からない。どうやら彼は時間を気にする習慣がないらしく部屋じゅうどこを見渡しても時計なんてないし、もしあったとしてもそんなところに視線を与える余裕なんて私にはなかった。


****


ひたすらに所有印を刻んでは口づけてくる彼はとても楽しそうで、どこか切なげに見つめてくる瞳は色香に満ちていた。
ユーマさんはキス以上のことを強いてくることはなく、私の肌がふやけるてしまうんじゃないかというほどにずぅっと、全身に印をつけていた。

「蕩けきった顔しやがって…なあ名無しさん、今お前どんな顔してるか教えてやろうか…?俺のこと、欲しくて欲しくてたまらねえって…よっ」

「ん…ぅ、」

気づけばショーツだけをまとった状態で彼にされるがままになっていて恥ずかしくて逃げ出したいのに思考回路はぐちゃぐちゃだし身体はまるで私のものではないみたいに言うことを聞かない。上から覆いかぶさっていたユーマさんは突然私を抱きかかえるようにしてソファにかけなおしてまたキスをする。

「返事、出来ねえくらい気持ちイイのか…?ほら、いい子ちゃんにはご褒美だ。」

後頭部と腰を押さえられて深く交わるキスは媚薬のように私の身体をおかしくする。
ユーマさんの少し冷たい唇と舌が気持ちよくって頭の中がふわふわして、何も考えられなくなった私はそのまま身体に逆らわずに意識を落としていった。

「んっ、は…っ、名無しさん…?」

キスだけで失神とかありかよ…

って彼が苦笑いをこぼしていたのは私の知らない話


**


次に目が覚めた時には私は自分の部屋のベッドに寝ていて隣にユーマさんはいなかった。

「…ゅ、まさん、どこぉ…?」

今日一日のあのうれしかった出来事は全部夢だったのかなって思うほどにいつも通りの我が家にすごく寂しくなって姿の見えない彼を呼んでみるけれど返事はないまま。
じわりと滲んでくる涙には気づかないふりをして寝起き特有のぼぅっとする身体を動かす。時計を見ると午前2時を回ったころだった。明日、仕事なのに…こんな時間に起きちゃった

「ユーマさん…ユー、マさん…」

ああもうなんでこんなことになったんだろう。出会ったばかりなのに…(あれが夢じゃなければだけど)思いを伝えあったばかりなのに彼のことしか考えられない考えたくない。
リビングにも気配はなくて、寂しい気持ちを必死に押し殺しながら椅子に座って考えてみるのはこれからのこと。
ユーマさんはヴァンパイア。ユーマさんは私のことが好き…?私はユーマさんが好き。ずっと一緒にいたいけど私には今の生活を捨てることなんてできない。だけどユーマさんはすべてを捨てて彼のもとへ来いって言う

「もう…わからないです、ユーマさんっ…」

「だーかーら、黙って俺に堕ちちまえばいいんだよ」

「う、そ…」

後ろから聞こえた声に振り返ろうとした瞬間に大きな手で目を覆われる。

「お前、キスだけで失神するとかマジで勘弁しろよ…そんなに気持ち良かったのかァ?」

俺の、キス

目を塞がれて敏感になった聴覚を直接刺激するように入ってくる心地良い低音。ほんのり甘い香り。不器用だけど優しい右手。ちゅって音を鳴らして頬に触れてくる唇
――あぁ…ユーマさんだ

「寂しがり屋のウサギさんは俺が風呂に入るのも嫌なのか…?あー一緒に入りたかったのか、俺は大歓迎だけど…?」

「ユーマさん…っ、ぜ、全部、夢かと…思った…ほんとに、ゆーまさん…ですよ、ね…?」

「俺以外にお前にこんな風に触っていいやつ、いると思ってんのか?そんな奴いたらぶっ殺す」

ギリッと歯を食いしばる音が聞こえて手探りでユーマさんの頬に手を伸ばした手はユーマさんの口元に運ばれて手のひらにキスをされる。
彼の舌がそっと指の根元を這ってそのまま指先を含まれる。

「ん、ちゅ…このまま食っちまいそうになる…」

この優しい捕食者はこうやってどのくらいの獲物を捕食してきたのだろうか

「お前、まーた変なこと考えてんな?言っとくが、んっ…俺がこんなに優しくするのは後にも先にもお前だけだ…っ。」

口の中に入れられた指でそぉっと彼の牙に触れてみる。ぴくりと彼の眉が動いたけれどそのままにしてくれたということは私の思うとおりにしていいということだろう。
なんとなく触っているだけだったけど少しだけ楽しくって飽きることなく彼の牙を触ることを堪能していた私の口元にユーマさんの指が触れてきた。
相変わらず視界は奪われたままだったので少しビックリしたけれど指はそのまま唇を割って口の中に入ってきた。

「ん、ふ…ぅ、んぅ…」

まるでキスするみたいに舌先に触れては離れて今度は絡ませて。ユーマさんの指はほんのり砂糖の味がした。お風呂上りなのに砂糖の味が体に染みついているのかそれか風呂上がりにすぐシュガーちゃんを食べていたのか…

「んっ、考え事なんてする余裕ねえはずだけど…?なあ、このまま俺のもんになるか?名無しさん、お前が欲しくてたまらねえんだよ…俺のことしか見れなくなって俺のことしか考えられなくなれよ。そうしたらもっとイイことしてやるから、な…?欲しけりゃ、お前のそのかーわいい口からおねだりしろよ。」

でもまだ食べごろじゃねえんだよな…って呟きが聞こえて開かれた視界

「愛してる。」

一番最初に見えたのは大好きな笑顔。

もうとっくのとうにあなたのことしか考えられない体になっているみたいです。







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