ディアラヴァ

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あの日以来、いわゆる恋人という関係になった私たちはというと

「プリンが食いたい」

「プリンですかーじゃあ帰りにスーパー寄らなきゃ。ユーマさん、お先に帰ってますか?」

「…お前一人で帰らせるわけねえだろ。」

「私、一応成人してる大人なんですけど…」

「ダメだ。」

彼は何を心配しているのかが相変わらず分からないまま毎日帰り道は迎えに来てくれていたし、変わったことといえば会話が多くなったことと送ってくれた後にはユーマさんが普通に我が家に来ることになっている点だ

「ユーマさん、本当に甘いもの好きですよねえ…」

「食わねえとフラストレーションが溜まんだよ。特にお前の作るのは美味いしな。……できれば名無しさんごと喰っちまいたいくらい…」

「あっ!!!ユーマさん、す、スーパーです!!!」

「おいこら、いい加減慣れろよ…顔、トマトみたいに真っ赤だぜ?」

くつくつ笑うユーマさんは知っててこうしてからかってくるのでたちが悪い

結局、彼は「吸血もそれ以外の行為も私から求めてくるまで待ってやる」と言ってくれた。但しキスだけは拒むなと念押しをされたけど…
話を聞くと彼と交わりを持てば持つほどにヴァンパイア化する可能性があるそうだ。それを聞いてもなお俺と一緒にいれるか?と問われた言葉にすぐには返事ができなかった。
私はもう、彼にすべて捧げるとは決めているのだけど、ヴァンパイアになることにはまだ勇気が持てない。ユーマさんが言う「おねだり」はできていない。

ヴァンパイアになったら私の血はどうなるの?ヴァンパイアになった私に価値はあるの?私はユーマさんと永遠の時間を一緒にいられるなら嬉しいけれど、彼はどうなんだろうって考え始めると止まらなくって最近はずっと寝不足だ。

私が寝付くまで夜行性のユーマさんはずぅっと起きてそばにいてくれるけど瞳を閉じて寝たふりをしているときに彼が私の髪をいじったり、頭をなでたり頬に触れたり…そっと壊れ物を扱うかのような動きに涙が出そうになる。
こんなに大好きなのに、疑ってしまってごめんなさい。ユーマさんも本気だってわかってるのに、ごめんなさい。ごめんなさいばかりが積もっていく

「おい、プリンて何使って作るんだよ」

考え事をしていたら目の前にはプリンの元を掴みながら真剣な表情のユーマさん
す、すごい光景…

「卵と、生クリームと、お砂糖、あとは…うーんレシピを見ないと細かくはわからないですけどだいたいこのくらいですよ」

あ、バニラエッセンスもだ。これは家にあるから…買うものは生クリームと卵かな
さくらんぼ買って生クリームと一緒にトッピングもいいかも

「ユーマさんはさくらんぼとかフルーツは好きですか?トッピング用に何か買おうと思ったんですが…」

「桃」

「じゃあ甘い桃缶買っていきましょう」

桃とプリンが合うかどうかは別として、私は好きなものを好きなだけ食べればいいと思うのでユーマさんの好みに従う。それに桃は甘くて大好きだ


**



帰宅して夜ご飯を作って、私が食べる姿を向かいに座って見ているユーマさん。食事はとらなくてもいいそうだ。たまに私のご飯をつまむこととか気まぐれにしっかり一人前食べることもあるけど食事中はもっぱら彼が私を観察する時間になっている。

「ユーマさん、肉じゃが食べますか?」

「ん、食う」


意外にも外見に似合わず(って言ったら怒られた)ユーマさんは和食が好きみたい。確かに洋食よりも甘い味付けが多い和食は彼好みかもしれないなぁー
あーんて口を開けて待機するのもいつもの光景で、どうやら彼は思っていた以上にスキンシップを好むらしい。普通だとあーんなんてされるほうが照れるはずなのに、なんだかこっちが照れてしまう。
食べた後に美味いって一言をくれるところもさすがとしか言いようがない。こんな方がなぜ、私のことを好きって言ってくれるのか甚だ疑問です

「また考え事か?俺が目の前にいんのにずいぶんだな、あぁ?」

「ちっ、違うんです…!!あの、その…ユーマさんのことを…あの、」

「お前、本当に嘘つけねえよな…くくっ」

「むー、ユーマさん意地悪です…明日、プリン少なくなりますよ?」

「いいぜ?プリンがない分、お前をゆっくり味あわせてもらうからな」

「あぁぁ…やっぱりたくさん作ります…心臓がいくつあっても足りないです…」

食事中の雑談。こんなちょっとしたじゃれあいもすごく嬉しくて、ついつい頬が緩んでしまう

「何にやけてんだよ。」

「いひぁいでふ…」

「っ、わり…」

むにーっとほっぺたを引っ張る力は弱いくらい
だったけど反射的に痛いと言ってしまった。
あーまた、失敗した

「ごめんなさい、反射的に言っちゃっただけです…」

離れたぬくもりが寂しくて引っ込みかけたユーマさんの指をそっと掴んだ。
彼は眉間にシワを寄せて不機嫌顔で

「我慢してねーだろうな…?俺は力加減が分からねえから、いつお前を壊しちまうか心配で仕方がねえ…こんな風に人間に触れたことがねえんだ。」

恐る恐る私の指を握り返す右手は少しだけ震えていて、そのまま指先にちゅっと可愛らしいキスを落とされる。

「キスだけは、優しくできるからな」

彼がキスだけは拒むなと言った理由はここにあったのかと納得した。それと同時にどこまでも優しいユーマさんが愛しくもあり、悲しく感じた

―私はそんなに弱い存在なのだろうかと

「ユーマさんは充分優しいです。」

「はっ、そんなこと言うのお前くれえだよ。もし、仮に本当に俺が優しいとしたらそれはお前にだけだ名無しさん…」

何度伝えても彼は信じてくれない。
じぃっと見つめてくる瞳だって、私の手を握り返す手だって、テーブル越しに頬に触れる唇だって…いつだって彼が私に与えてくれるものは甘いものばかり。

「なぁ、早くこっちに来いよ…」

それは今の物理的な距離のことなのか私たちの種族の違いのことなのか。怖くて問うことが出来ないままに瞳を閉じた。

「なんで、お前は人間なんだろうな…まぁ、人間じゃなけりゃあ出会うこともなかったか。今更離すつもりもねえけど、絶対に離せる気がしねえんだよ。お前が俺を拒否ったら泣いて喚いても無理やり監禁して一生飼いつづけるか殺しちまうかもしれねえ…」

キスをされるかと思う距離でおでこを突き合わせながら話すユーマさんはなんだか寂しそうで、必死に腕を伸ばして抱きしめた。

「大丈夫です。ユーマさんとずっと一緒にいます。私が生きている限り…」

たとえばヴァンパイア化しようとしてできなかった場合でも、私がこのまま人間の道を選んだとしても…それこそヴァンパイアになって永遠の時を生きることになっても

「ユーマさんが私を求めてくれる限りは、ずっと一緒です。」

「名無しさん、お前は本当にバカだな…俺はお前みたいにお人よしじゃねえから、お前が俺を必要としなくなったって、一生お前の全てを求める。食い尽くしてやるよ。」

荒っぽい言葉の後に訪れたのはふわふわしてしまうくらいの優しいキス。


愛してます、ユーマさん





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