ペダル

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「おー!!新開こっちだぞ!!ん!?隣のその女子は誰なのだ!?新開のくせになぜ女子と一緒にいるのだ!?」

「っせーよ東堂!!隣でワーワー喚くなバァカ!!バァカ!!」

あ、やっぱりいた。正直仲間とはいえ彼女と尽八、靖友の組み合わせはいろんな意味で不安だけどさっきみたいな目に合うよりは絶対いい。

「おめさん、この二人といてくれないか?俺の高校の時からの仲間。」

尽八はもちろんのこと、なんだかんだで靖友は面倒見がいいから護衛もそうだしレースのことも解説してくれるだろう。不安そうにこちらを見上げる彼女にそう告げると、さっきのナンパがよほど嫌だったらしく小さな声でお願いしますと肯定の返事が聞こえた。

「やっぱりおめさんたち来てたんだな。ちょっと悪いけどレース中この子と一緒にいてくれないか?」

「む、頼まれなくとも女子が一人はならん、ならんよ新開。このスリーピングビューティ東堂尽八がもてなしてやろうではないか!」

「後でベプシよこせヨ。」

靖友、おめさん相変わらず好きだなベプシ。

「みょうじ名無しさんです。よ、よろしくお願いします…」

俺の後ろ、小さな声であいさつするみょうじさんはなんだか緊張していて俺と普段いる時を思い出すと、なんだかんだ少しは俺と打ち解けてくれてるんだなぁって小さなことで喜んでしまった
可愛いらしい女子だな!って言う尽八には彼女が年上の社会人だと言うことを教えてみるとすごく驚いていた。隣にいた靖友は驚いてはいなかったけど

「なァんとなくにおいでわかるゼ」

「靖友、おめさんなんでもにおいで判断すんの止めろって言われてなかったっけ…あ、俺もう行かなきゃダメだ。おめさん良い子で待ってろよ」

とんとん、と頭を撫でると驚いた表情
知らない顔に少し戸惑う彼女が可愛くてつい子ども扱いしてしまったが今さらこの右手をよけることもできず

「はい、分かりました」

行ってらっしゃいと微笑む彼女にまた胸を打ち抜かれた気分だった




****

その日のレースは負けるはずもなく、宣言通り明早大学の優勝。

「ありがとな、寿一」

「いや確かに俺はアシストしたが今日の勝利は新開、お前が強いからだ」

ヒュウ!相変わらず嬉しい事言ってくれるよな寿一は

「なかなか早かったんじゃなァい?でもなんでお前がエースなんだよ福ちゃんはどうした福ちゃんは」

靖友は相変わらず寿一が大好きだな

「新開!女子の視線はやはり俺に向いていたが、お前もなかなかだったぞ!!」

な、名無しさんちゃん!!!って楽しそうにみょうじさんに話しかける尽八に頭をぶん殴られたような衝撃が走った。
なんで名前呼んでるんだよ尽八
みょうじさんはいつもみたいに顔を真っ赤にしているけれど尽八の名前呼びに嫌がるそぶりは、ない。

「あ、の…新開さん、え、っと、」

「悪い俺ちょっと、抜けるな?」

「っ!?新開さ、ん…?」

きょとんとした顔のみょうじさんの細い手首を握りしめてすたすたと歩く。後ろで尽八と靖友が何か言っているがまあ放っておいても問題ないだろう。テント裏なら誰にも見られないだろうと思い、ひとまず一番近いテント裏に着いたころには彼女の息は上がっていて少しだけ罪悪感。
掴んでいた手首をそのまま顔の横あたりまで上にあげてテントに押し付ける。いわゆる壁ドンの体勢だ(この場合はテントドンなんだろうか)
赤い顔、上がっている息、こちらの様子を不安そうに見上げる瞳は少しだけ潤んでいて…
ほら、こんなに可愛い姿誰にも見せたくなかったんだ。

「おめさん、ずいぶん仲良くなったみたいだな」

何が起こっているのか状況を把握できていない様子のみょうじさんの耳元に囁く。

「なぁ、俺も名前で呼んでいいかい…?」

「んっ…え、ど、どうしたんですか新開さん…?」

名無しさん?って問いかけると身をよじらせながらも真面目に返事をする彼女にまた少しささくれだった心が丸くなった。

「いいですけど…」

「本当か…?」

名無しさん、名無しさんってなんだか嬉しくて一つ一つの響きをかみしめながら繰り返し名前を呼ぶ。なんだよ俺は中坊か…

「新開さん、今日はとってもかっこよかったです」

優勝おめでとうだなんてそんな可愛い顔で言わないでくれよ困るから…これ以上重症にさせてどうするつもりなんだ彼女は





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