黒バス

□気になる子
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俺の隣の席の名無しさんちゃんは一言で言うと…甘えん坊

甘えん坊とは言っても、なんていうかべたべたくっついて媚を売る感じではなくて…うーん、あれだ。寂しがり屋?に近いのかな?
女友達はいるみたいだけど男慣れはしていないようだった。友達にたいしても『寂しいよ。』と声に出してくっつくのではなく、後ろをまるでカルガモの雛のようについていく姿は見ていて癒される
なんで甘えん坊だと思ったかと言うと、ふとした休み時間に一人になっていた時に見せた寂しそうな表情が原因だった。その時はたまたま彼女の友達が用事とかで出払っており、彼女は教室でぽつんと一人だったのだ。多分俺は普段見せる彼女の甘い微笑みを見ていたからなおさらそう感じたのだろう。

「あれ?名無しさんちゃん、どうかしたの?」

と思わず話しかけてしまったのだ。するとどうだろう、いつもは男子に話しかけられるとそれが例え業務事項だとしてもしどろもどろで会話があまり成立しない彼女の顔がぱぁっと明るくなったのだ

「ん、と…なんだか静かで、寂しいなぁって…」

そうか、普段は物静かであまり自分から発言しない彼女のことだ。静かな空間が好きなのだろうと思っていたのだがどうやら俺の考えは全くの外れだったらしい
頬を若干赤くさせながらも吐き出した言葉はとてもまっすぐだった。こんなに素直に寂しいと言える子なんてなかなかいないと思う

「そっか、じゃあさ…俺が代わりに話し相手になってもい?」

ついつい言った台詞はもう戻せない。な、何を言ってるんだ俺…普通嫌だろそんな話したことないやつとなんか…交遊関係は広いし、男女問わず話せる自信はあったけど如何せんこのタイプの子はなぜか自分から俺を避けることのが多いのだ

「え…?でも、高尾くん…他のお友だちと話した方が楽しいんじゃないかな…私、話下手だし、ごめんね…」

一言一言、とても大切そうに紡がれた言葉は拒絶と言うにはあまりに弱い響きを持った、俺を気遣う言葉たちだった。
申し訳なさそうに、だがしかし離れがたそうな表情。元来、世話好きな方である俺の中の庇護欲が刺激された。

「なぁーに言ってんの?そういえば席、せっかく隣になったのに話したことなかったじゃん。俺としては、良い機会だと思うんだけど、どう?」

安心しなよ、ってニカッと笑ってみせる。すると名無しさんちゃんも少し緊張を解いてくれたようで

「う、ん。ありがとう、高尾くん。」

やっべ、可愛いかも。庇護欲どころかこの笑顔を俺だけのものにしたいとか違った欲が沸き上がってきたのを感じる。あー…これは、惚れたのかもしれない。

と、自分の恋心に気づいたのが4日前。んで、今片思い生活5日目。
残念なことに彼女はその後、特に友達と離れることもなくチャンスがなかった。まさか友達と話しているときにインターセプトするほど図々しく、野暮にもなれない。自慢のホークアイも隙がなければ意味がない。常に誰かと一緒にいるってある意味ガードが固いな…

なんとなくの腹いせに今日も前の席の真ちゃんをからかうことにした。




迷惑そうな真ちゃんをよそに俺だって虫の居所が悪い日くらいあるさっと意味のわからない感情を抱いてしまうくらいにちょっと焦っているらしい。
そんな折、俺に待ちに待ったチャンスが訪れた。昼休み、いつも彼女と一緒にいる子たちが委員会やら日直やらでいなくなったのだ

「名無しさんちゃん、どったの?」

知ってるくせに寂しそうな彼女にわざとそう話しかけるのは彼女から頼って欲しいというちょっとした俺の意地悪。ごめんね

「うん、お昼一人になっちゃったんだぁー…」

えへへ…なんてさびしそうに呟かれたらさっきまでのS高尾はどこへやら。短かったな、俺のS期間
とりあえず彼女の方へ机をガタガタと動かしてくっつけると、当の本人はキョトン顔

「ん…どうしたの高尾くん、机、使う…?」

こんな状況になってなおも俺を気遣うセリフにちょっと笑えてくる

「違う違う、お昼一緒に食べよっかなって!!!……ってダメ?」

そう、無理強いはよくない。俺は名無しさんちゃんのこと、すごく、すっごく、もう世界中に叫んでもいいくらいに大好きで甘やかしてあげたいわけだけど、彼女の気持ちは全く分からない。多分クラスメイトの高尾くんラインだろう。そんな奴にいきなりお昼一緒にどう?なんてひかれてもおかしくない。なにせ相手はこの何も分からない、といった様子で目を瞬かせているこの子だ

「え、でも…高尾くん、いつも緑間くんと、食べてるよね?」

とはいったものの、うん、あとひと押し。この手のタイプは総じて押しに弱い

「うーん、まぁ今日は名無しさんちゃんと一緒に食べたいなって。ね?」

「う、ん。私は一緒に食べてくれる人がいたら嬉しいけど、高尾くん楽しくないんじゃないかなって…」

全く何を言ってるんだか。そんなことあり得ないのに。こないだ話した感じから言って名無しさんちゃんは確かに饒舌ではないがその分、とても聞き上手だった。

「よし、きーまり!!!いただきますっ」

結局さっきまでの考えはあったもののなかば強引に一緒に昼食。もういいや、うん、名無しさんちゃんには作戦だとか考えだとか通じないッぽい。こんだけ積極的に言っても例えば、俺が彼女に好意をもっているだなんて夢にも思ってないんだろうな。

ゆっくり、昼休み一杯使って話してみて分かったことは名無しさんちゃんはスポーツを見ることが好きってこと。ちょっと意外だったけど運動苦手だけど好き、って言った時の「好き」という単語に過剰反応しそうになったのはココだけの話。
あと、多分ほぼ100パーそうだろうなと思っていたが確信した、恋人はいない。だって話す内容に男の影が一個もなかった。いやもうお願いですいないで下さい。高尾、一生のお願い。
あとは不意に笑って見せる笑顔がそれはもう、写メにとって見せびらかしたいくらいに可愛かった。
とりあえず予想以上に名無しさんちゃんが鈍い子だってことも分かったのだ。俺がどんなに名無しさんちゃんの好みとか聞いてみてもなんだか不思議そうな顔を見せたり、もう、可愛いからいいけどさ…

そう考えてみたらこの子には最初から告白→アタックの流れの方が通用する気がしてきた。






というわけでもう、すぐ実行すべし。だって好きなんだもん。仕方ないじゃん?こんな脳内だけどまぁ、今は授業中な訳で(幸せな昼休みはさっき終わったばかり)でも待ちきれない俺は、となりで真剣に古典の暗号のような文章をノートに写す名無しさんちゃんの肩をトン、と控えめに触ってみる。

「名無しさんちゃん、名無しさんちゃん」

「…?」

小首かしげてこっち見るところも可愛い…!!!どうしたの、高尾くん?ってすごく小さな声で聞いてくるところも可愛い。あぁ、ダメだやっぱ…すっげえ好きなんだわ。授業中にお話なんて、慣れてないんだろうなーそんなにキョドんなくてもってくらいにキョロキョロ黒板を気にしている。俺から話しかけたっつーのに、この沈黙にもちょっと耐えられないんだろう、話しかけたこっちが申し訳なくなるほどに俺と先生に視線をキョロキョロする様はさながら草食動物だ。そしてそれを見据える俺の目はまるで猛禽類

「あのさ、俺、名無しさんちゃんのこと好き。ほんと、知り合ったの最近かもだけど、その笑顔一人占めしたいなーとか俺にだけくっついて甘えて欲しいなーとか思っちゃうんだわ。ほんと、すっげえ好き。大好き。」

あくまで小声で、周りに聞こえないように努めたけど前の席の真ちゃん辺りには聞こえてるかもなんて思ったけど無理だ抑えきれない。なんで今なのか分かんないけど言い始めたら口は止まらない。わあ…俺ってこんなに余裕ない奴だっけ

「なぁ…やっぱり急には無理だとおもうから、さ、名無しさんちゃんもちょっとだけそういう目で俺のこと見てくれたら嬉しいなーなんて、思うわけなんですよ」

うん。今はこれでじゅーぶん。と、一人ごちて改めてとなりを見てみると

「っ…!!!」

高熱でも出したような真っ赤な顔をした彼女がいたわけで。え…?そんな表情見せられたら

「勘違い、しちゃうけどい?」

そっと耳打ちした時に見た彼女の頬はリンゴみたいに真っ赤っか。

「だ、って…高尾くん、み、みんなに優しくって、私、なんか全然話せなくって…」

「あーもう、可愛すぎだっての」


今日から俺の可愛い彼女ってことで?


あーのさ…我慢できないんですけど、授業抜け出したい

え、む…無理、だよ…高尾、くん

うーん、じゃ、とりあえず明日から朝迎えに行ってもいい…?んで、明後日の休みはデートな。

え?で、でーと?わ…私、デートなんてしたこと…

初めてゲットってことで!!

―お前ら、授業中なのだよ。




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