黒バス

□好みそれぞれ
1ページ/1ページ

「背が高い子〜。オレより高かったらやだけど。」

彼のその一言を聞いてしまった時にはショックでその場をしばらく動けなかった


ことの発端は昼休み、新聞部の人たちが来てキセキの世代のインタビューをして回ってるとのこと

「えー俺に関係ねーし。見て分かんない?今、名無しさんちんとのんびりしてんだけど。ひねりつぶすよ…?」

顔を青ざめつつそれでもお願いする新聞部の方々がちょっと可哀想になってしまい、私も紫原くんの説得側に回ってしまった。今となってはここで断ればこんな思いを抱えることはなかったのにと後悔している私はなんて性格が悪いのだろう

「紫原くん、すぐ終わるって言ってるし、ね?一緒にお菓子でも食べながらお話聞こう?」

「うーん…名無しさんちんがココ、座っててくれるならいいよ〜」

「うぇ!?ひ、膝…?」

確かに二人きりで過ごす時には私の定位置となりつつある紫原くんの膝の上・もしくは足の間。でも…ここは教室な訳で。

「じゃないと、俺ヤダ。聞かない。」

駄々っ子のように耳を両手で塞ぐ彼に新聞部が絶望的な表情を浮かべてこちらに懇願するような視線を向けてくる。

「うぅ…じゃあ、ちゃんと話聞こうね…?」

「うん。分かったー」

向けられる視線に勝てるはずもなく、紫原くんに了承の意を伝えるとヒョイと持ち上げられてすぐに彼の腕の中。恥ずかしいが致し方がないし、なんだかんだ私だって彼とくっつくのは大好きなのだ。

なんでバスケを始めたのか、好きな食べ物は、趣味は等差し障りのないインタビューが続くなか、なんとなく。だとか彼は短めの気のない返事ばかり。合間合間に私の肩に顔を乗せてみたり頬をくっつけてみたり…どうやらかなりストレスが溜まり始めているようだ

「好みのタイプを教えてください。」

むしろ私の方がドキッとした質問。そういえば紫原くんといつの間にか仲良くなってお付き合いするようになったので、私はよく女の子がする好みのリサーチだとかをしたことがなかったのだ。
そんな私の心を知ってか知らずか彼は私をチラッと一瞥して話し出した
それが、冒頭の一言。





彼、紫原くんは少しだけ意地悪な所や毒舌な部分があるが、でもそれが私に向けられることはとても稀である。もしも意地悪を言ったとしてもそれはさっきのような、膝の上にのってくれないと〜とかそういった類のものだ。
そう言う点を考えると…もしかしてこれは彼の本音ではないのだろうか。意地悪とかそういうものを取っ払ってついでてきた本音

私はどう頑張ってみてもせいぜい平均並の身長なわけで。あ、そう言えば隣のクラスの雨宮さんは170超える長身美人だったなぁ…紫原くんにはそのくらいの長身でも到底及ばないけどやっぱり、身長高い方がいいのかな…どうすれば良いんだろう、考えれば考えるほど途方にくれてじわじわと涙が出そうになってきた

紫原くんは、私が嫌い?背が低いから嫌…?

「え、ちょ、待った。名無しさんちん、どったの…?え…これ美味しくなかった?」

溢れる涙はポロポロポロポロ止まらない。反応がない私を気にして後ろから覗きこんできた紫原くんも、まさかの涙に動揺している。止めなきゃ、止めなきゃ、これ以上迷惑をかけてしまうだなんて嫌なのに…
ぎゅーっと後ろから抱き締めながら紫原くんの綺麗な顔が近づく。

「名無しさんちーん…名無しさん…?あ…とりあえずさーもーいーでしょ、席外せよ」

「あっは、はい!!!ありがとうございましたっ!!!」

新聞部の人を追い返す彼の瞳は少しだけの焦りと怒り。あぁ…優しい彼を困らせた上に、怒らせてしまった…

「どうしたの?名無しさん、寂しくなった…?あいつらいなくなったからゆっくりしよー?」

子供をあやすかのように頭をよしよし、と撫でながら話しかける紫原くん。こんな子供っぽいのは嫌だよね、背も低くて、スタイルも良くなくって…

「ご、ごめんな、さ…っい。む、むっらさきば、らくん…私なんかが彼女でごめんなっ…さい。」

「………ん。何言ってるかわかんねーけど名無しさんのこと『なんか』とか言ったら名無しさんでも怒るよ?俺の可愛い、可愛い彼女なのに。」

一言、一言すとんすとんと胸に落ちてくる。優しい言葉ばかりかけてくる彼の眼は嘘なんて付いていなくて

「あー…ダメだ上手く言えね。…よいしょ」

「えっちょ、っと紫原くん?」

「はいはーい。ちょっと待ってねー」

担がれて向かう先はどこなんだろう…?もう彼相手に抵抗するのも無駄なので身を任せることにした。





「ほい、とーちゃく。」

「…こ、こはバスケ部の部室?」

うん。って言いながら地べたに座り込んでこちらを見つめる紫原くん。どこからともなく出てきたまいうー棒をもさもさ…

「それで、名無しさんちん、どうしたの?ねえ、ここならいいでしょ?誰もいないし。言ってくれないと俺離れないから」

長い手をこちらに伸ばしてぎゅうううっと抱きしめられると体が一気に彼に傾く。すっぽりと収まるサイズ感、紫原くんの体温、サラサラと当たる髪の毛、肩にかかる吐息全てが愛しい。離して欲しくないから、すっとこのまま言わないでいたいな、なんて思ってしまうほどに。

「ねーえ…このまんまでいいんなら俺はそれでいいんだけどさーやっぱ名無しさんが泣いてた理由くらい、聞きてーし」

こつん、とおでこをぶつけて問いかける瞳はとてもまっすぐだった。彼に小細工など、通用しないのだ

「ご、ごめんね…さっき、紫原くんが背が大きい子が好きだっていったから、その、ショック…で…」

私のとぎれとぎれの言葉をうん、うん、と優しく聞いてくれた彼は言葉を飲み込んだ後に目をパチクリさせて(こんな表情はとても珍しい)

「え?あれ、名無しさんがもうちょい伸びたらちょっとくっつきやすいかなって言っただけだし。」

「え…?それって、どういう意味…?」

「だって、俺は良いんだけどさー名無しさん、いっつもキスするとき首が伸びきってて苦しそうなんだもんー」

確かに、50センチ近くの身長差があると、ちょうどいい段差というものもなくっていつも二人とも苦しい体勢が多いかも…

「あ、ゴメン。こうすればいいんだ」

ひょいっと抱きあげられたら彼と視線がぶつかる高さに視界が一気に高くなる

「わ、紫原くっ…んぅ」

「ん、はっ…これ、でいいっしょー?」

にこーって微笑む彼には一生勝てないんだろうなと確信した瞬間でした。

好みのタイプは君です

ん、名無しさん…っ口、…開ーけて?

へ?…どうしたのっん、はぁ…んぅ

はっ、ん…えへへーもっと、してもいー?


元から勝つつもりも、勝負するつもりもないみたいです




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ