黒バス

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やらかした。
いつもより少しだけ背伸びして買ったお高いヒールの靴がこんなにも憎たらしく感じる日はもうないだろう。いやそんな日は二度と来ないでほしい。

友人の結婚式に行って、素敵な式だったね〜なんて話しながら二次会開場へ。お酒も程よく入り気分が良くなった頃にお店のラストオーダーコールがかかった。
このまま帰るのもなんだかもったいないなあと思い珍しく三次会まで参加したツケが回ってきている
―――終電に間に合わないかもしれない。

このままタクシー…いや、ちょっと待ってただでさえ今月は出費がかさんでるからそれは避けたい。ああ、どうしてあんなにテンション高々に三次会行く〜なんて言ったんだろうか二時間前の自分。
とにかく今できることはただ一つ、ひたすらに走ることだけだ。鈍足だなんて言ってられない。走らないよりかはましなはずだ。

「は、ぁ…もう、ど、してこんなに駅が遠い、の…やっとついたぁ…

なんとか間に合ったようで、発車数分前。達成感とむしろ余裕すらも感じながら改札を抜けて自動ドアをくぐろうとしたその時、突然足が動かなくなった。

「へ…?」

なにこれ、右足に少し力を込めてみるとスポッと小気味いい音が聞こえた。少なくとも私の耳には、だけど。

「え…嘘、最悪だよぉ…」

ヒールがものの見事に自動ドアのレールにすっぽりと、それはもうぴったりとはまっていた。慌ててしゃがみ込んで抜こうとしてもアルコールのせいでいつもほどの力が出ないせいか、よほどぴったりはまっているせいか、とにかく靴が私の手元に戻ってくることはない。
今、私の頭の中の天秤は揺れ動いている。お高いヒールか、タクシー代か。二つに一つ。二兎追う者は一兎も得ず、だ。

「おねーさん、はい。」

働いている限りお金は毎月手に入るけれどお気に入りの靴は出会えるかわからない。よし、靴を取ろう。そう決意し再度足元を見たら綺麗な色の髪の男の子に声をかけられた。
しゃがみこんでたその子の手には、私の靴が大事そうに乗せられていた。

「ほら、終電間に合わないよ〜?」

「え、あ…っ、え、あ、ありがとうございますっ!」

別にいいよって言いながら腰を上げた彼を見ると、おお…た、高い

「あのっすみません本当にありがとうございます…!」

「ん、ほら早く行きなよ。じゃあね〜」

ポン、て頭の上に乗せられた掌は暖かい。頭を撫でられるなんて何十年ぶりだろうか…
ロクにお礼も言えないまま彼は改札から出て行ってしまったし、折角の彼の優しさを無駄にしないためにもと終電になんとか乗り込んで帰宅出来たけれども考えるのは先ほどあった彼の事ばかり。

「この歳にして初恋の一目ぼれって…ないない。重たすぎる…。」

頭を抱えたまま眠りにつけたのは朝方近くだった。





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