たからものささげもの他

□shit
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帰りたい帰りたい。できることならば今すぐこの場から全速力で(とても遅い)走って逃げ出したい。

「ギルティ。待て赤桐。そいつは俺様の下僕だ。」

「なぁーに言ってんのオレのだし。オレ様のだし。なあさっさと選べよ水ぶっかけられんのと砂ぶっかけられんのとどっちがいいんだよあ、両方かギャハハハ」

「何を言っている赤桐。名無しさんは今から俺特製アイアンメイデンの中でろうそく攻めされるんだ。くくくっ目に浮かぶようだぞ…苦痛に歪む名無しさんの顔。ノット・ギルティだな…」

「お、お二人とも…何か違う。はしゃぐ場所がなんか違います…」

もう嫌だ…普段はいいのだけど、一真君と瑛太君はスイッチが入ると止められないし私はいつもそんな二人にいじめられる。なんだかんだ優しい二人だから言葉だけとはわかっていても想像するだけで痛そう辛そう。

「くくっいいなその怯えた表情。やはりお前はいい表情をする。あの女のようにへこたれない奴を責めるのも悪くないが名無しさんが小動物のように怯える様を見るのは…いい。」

「気が合うな一真。こいつ小動物みたいで苛めるの超楽しいんですけど。なーどうすんだよ水か砂か?あ、分かった落とし穴の上から全部やってやるよギャハハハ。おらさっさとこっち来いって言ってんだろ」

ああ…またスイッチが…でも私には先生みたいにポジティブシンキングで対応も出来ない。というかこれで気を強く持つのは到底無理です。

あわあわと慌てるばかりの私に何をしようか思案しているドSコンビを前に逃げ道は塞がれているし、どうしようかとすごく悩んだ挙句に最終手段をとることにする

「れ…怜央くーん…」

自分で言うのもなんだけど、すごくか細い声だった。けれど彼は気づいてくれて、どこからともなく現れてくれた

「おい、一真に赤桐。何してるんだ」

「お、やっと来たか怜央。俺はな、お前とこいつをセットでからかうのが一番楽しいんだ…くくっ」

あー一真君、心の声がダダ漏れです…
すっとあらわれた怜央君が私の前に庇うように立ってくれて視界のすべてが彼の背中だけになる。

「一真…いい加減、その鬼畜な性格を直しやがれ。赤桐もだ。」

ため息をつきながらも決して突き放さないのは彼の優しさなんだろうなあ

「名無しさん、お前もお前だ。なんで毎回毎回こいつらに絡まれんのに学習しないんだ」

ぼうっと眺めていると矛先がこちらに向かってきた…うぅ、一真君と瑛太君、許さない…怜央くんのお説教はいつも長い。とても長い。その上、所々にカイザーが召喚されたりブリザードが吹き荒れたりするせいで風邪をひきそうだ

「おい、俺の話聞いてんのか?もう一回最初から言うぞ。いいか、お前はな…」

「まぁた望月のあれが始まったぜ…あぁーめんどくせ、ゴザルでもからかってくっか」

「ノット・ギルティ。俺も部屋で四度寝でもするか。」

お説教を始めた怜央くんと私を放置していなくなるいじめっ子二人組。その二人組のことを放置してそのまま私に向き合ってお説教モードの怜央君。私に逃げ場はない…
不機嫌そうにじっと見つめられてしまうと返す言葉もなくて、私も負けじと見つめ返してみる。
考えてみたら、私はただ単に怜央君を探して廊下を歩いていたところをあの悪魔コンビに捕まっただけであって何も悪くない。それだけは主張したい。

「なんだよ、反省したか?」

「私、悪くないもん…」

「…んな聞き分けねえこと言うのはこの口か」

「ほーひてほんなひひはふはの」

「どうしてそんないじわるなの」と言ったつもりだけどきっと通じてない。むにーっと頬を横に伸ばされながら考えれば考えるほどに理不尽な話だ。これは一真君がよく先生にやっているいじめの常套手段ではないか…!!もっとも彼の場合は愛情表現とも取れるんだけど、とにかく今日の怜央くんはいつもよりも冷たい。いつもならなんだかんだこうして助けてくれた後はすぐ二人でのんびりするのに。






「…そんな目で見るな。」

むすっとした顔同士でにらみ合っていると意外にも先に折れたのは怜央君の方で

「名無しさんが…、…ィ」

「え?私が…?もう一回お願い、怜央君」

歯切れ悪く吐き出された言葉を拾うことができずもう一度言ってもらえるようお願いしてみてからしばらくの間をおいて彼はゆっくりと話した

「お前が…!!一真たちと楽しそうにしてるからっ!!悪いって言ったんだ!!!」

「……怜央君、あのね、あの場面を見てどこが楽しそうだったのか教えてくれないかな…?」

楽しいだなんてかけらも思ってなかったよ私は…あの悪魔コンビに絡まれて楽しいと思える人物なんていないんじゃないだろうか…先生は楽しいわけではなくて耐えられるってだけだろうし。
そんなようなことを私がいくら説明しても彼は納得がいかない様子で未だに眉間にしわを寄せている

「俺の前じゃあんな顔しねえのに、どうして一真と赤桐の前であんな顔してたんだよ」

「えっちょっとまって、怜央君待って。ど、どんな顔…?」

「真っ赤な顔して笑顔見せてた。」

わあ、不機嫌な顔…て感心している場合ではなく、先ほどまで二人組といた時のことを思い返してみるとひとつだけ、思い当たる節がある。彼はきっと止めに入るしばらく前からこちらを見ていたのだろう。けれどそれを彼に告げるのはあまりにも恥ずかしい…でも言わなければ怜央君はずっとこのままだろう。せっかく練習も抜きで怜央君と一緒にいられるのにそれは悲しい

「あれは、その…ね、」

「別に。言えねえならいい。俺に言えないことなんだろ?」

「もー…どうしてそうなるのかな怜央君…違うよ。怜央君だからあの表情が見れないんだよ」

「なんだよ、俺だから見れないって…意味が分からねえ。」

あー…また言葉を間違えたようだ。もう言ってしまおう、それしかない。と心に決めて気合を入れて言葉をゆっくりと出していく

「だから、ね…れ、怜央君のことを話してたの。あの二人が怜央君のどこが好きなんだーってしつこいから」

そう、怜央君の好きなところを話しているから怜央君はきっとその時の私の表情を見ることはないだろう。本人を目の前にしてそんなの、羞恥プレイにもほどがある。

「へぇ…?どうしてそれが俺が見れない理由なんだ?」

「いや、だって怜央君の前で怜央君の話なんてしないよ…?」

急に距離を詰めて「聞かせろよ」だなんて耳元でささやかないで怜央君。逆らえなくなるじゃない
そういうちょっと意地悪なところとか、いつも頼りがいがあって優しいところとか、実は人一倍臆病なのに何からも逃げ出さないところとか。何よりも何のとりえもないこんな私のことを好きって言ってくれる所も…とにかく全部が大好きなの。って一度話し始めると止まらなくて半ばやけになって言い放った言葉はすべて彼に聞かれていたらしい…いや、当たり前だよね目の前にいるんだもん

「…さっきの顔と違うけど、可愛いから許す。」

「うー…なんでこんな恥ずかしいっ…ねえ、ところで怜央君今のってもしかして、」

「嫉妬でShit、だな「ペギー!!!」

「もう、怜央君ったら…」

いい雰囲気だったのかどうなのかわからなくなっちゃったじゃない…
お前、可愛いなあなんて照れるセリフをぎゅうぎゅうに抱きしめられながら
言われたら、どんな寒いギャグでもいいやって思っちゃうし結局彼の笑顔に弱い私は今日もブリザードに耐えてます。





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