ダンデビ
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「あ、ナナシロさん。」
三日前になぜか舎弟認定されて。外人さんはよくわからない日本の文化に憧れているのかななんて思うことにした。まぁ、この出会いをこうなったら思いきり楽しもうと思うところまで前向きになっていた今日この頃。
帰り道、暗がりの中でも見間違えるはずのない彼を見つけてつい話しかけてみるとこちらをちらりと見やって
「おう、名無しさんお前またこんな時間に帰ってんのかよ…」
「うーんまぁ、仕事ですから…」
若干あきれ顔をされたけれど仕事だから仕方がないんですとだけ返しておいた。決して自分の要領が悪いせいでは…ない、はず…
「女なんだからあんまり暗いとこ歩くんじゃねーよ。あと、ちゃんとこっちの目ェ見て話しやがれ。」
「すみません…目を見て話すのが苦手で」
ナナシロさんの的確な指摘に本当半分嘘半分な言葉をつい、口にする。
かっこよすぎて目を合わせることができないだなんて本人を前にして言うことなんて出来ないし、彼だって反応に困るだろう。
「ちっ…まぁそれなら仕方がねぇけどよ。おら、行くぞ。」
「…?行く、とは…?」
「家、帰んだろ?」
送る、だなんて優しい言葉をかけないでください。惚れてしまいます。
「舎弟の面倒見るのは兄貴分の役目だからな」
にかっと見せる笑顔を直視することなんて、もちろん出来ないけれど舎弟歴が浅い(他の子がどんなのかは全く不明だけど)私にまで気を配るナナシロさんは本当に高校生なんだろうか?と思うレベルの兄貴っぷりだ。
「そ、そんな…ナナシロさんだっておうちに帰らないと心配されますよ?」
「あ?誰が誰を心配すんだ?」
心底わからないと言った様子を見せる限りずいぶんと放任主義のおうちなようだ。そういえば初めて会ったのもこのくらいの時間だったもんな。
「おら、早くしろ。」
「っ!?え、うそ、ちょ、待ってくださいどうしてこうなる…、」
「こっちの方が早ェだろ」
突然俵かつぎをされて頭の中は真っ白だ。いや、あの、早いとか遅いとかの問題ではなくてですね、ナナシロさん。という私の意見は聞き入れられることもなく突然走るナナシロさん。人を抱えて走る時点で色々とありえないのに、スピードがとにかく早い…おかしいな、これは車より早いんじゃないかな…?
そんな速度で走られた上に喋ってると舌噛むぜ?なんて言われたら大人しく担がれる他に道はなくて、これは夢だと言い聞かせることでなんとか意識を保つこと数分、到着したのは見慣れた我が家(マンションだけれど)の入り口
「おら、着いたぞ」
「わ、と…あ、ありがとうございます…?」
「なんだよ、なんか言いたいことでもあるのかよ」
「どうして私の家がわかったのかなぁなんて」
だって、以前に彼に会った場所は家の前ではなかったしもちろんその後も会っていない。なのに彼は私に道案内を頼むわけでもなく、道ひとつ間違えることもなく最短ルートでここまでたどり着いた。
出会いから不思議なことだらけだから全てはナナシロさんだから。という一言で済ませることも…出来なくはないけれど
「そりゃあ匂いを辿ってきたに決まってんだろ。」
「に、におい…」
思わず自分の身体をすんすんとしてみるけれど自分の体臭には気づかないって本当なのかな…辛い、辛すぎる
「なんかお前、甘い匂いがすんだよな。」
「えっ、あ、ちょっ…!?」
ぐいっと引き寄せられて首筋には彼の顔が埋められる。
「あ?なんでお前赤くなっ…、わりっ!!!」
真っ赤になっているだろう顔を覗きこまれたかと思うとなぜか顔を赤くして後退るナナシロさん。ちょっと待ってください、こっちが照れます。
「い、え…送ってくださってありがとうございました。そ、それじゃあ…」
おう…と幾分か小さめの返事を後ろに聞きつつエントランスに向かう。
心臓がうるさくて、痛い。
「あっちょっと待て。」
「っ、な、な…何か…?」
突然手を捕まれてとてもビックリしたのと触れられているという事実にまた顔がかぁっと熱くなる。
立ち止まった私に満足したのか掴んでいた手を解放し、何やらポケットから出してきた。
「連絡先、寄越しやがれ」
「そ、そんなカツアゲみたいな言い方…」
一歩台詞を間違えれば確実に警察沙汰ですよナナシロさん。そんな彼に少しだけ微笑ましくなりながら自分のスマホを出して連絡先を交換する。
「あ…南那城ってこう書くんですね?」
「通りでお前の発音変だと思ったぜ。今までずっと片仮名で呼んでやがったな?」
「っ、ほ、ほんなほほはいれす」
「南那城っつーのなんか慣れねぇんだよな…メィジでいい。」
「へーひはん?」
「おう。」
ぶにーっと頬をつままれているのにこちらの言ってることがわかるのか不思議と会話が成り立つ。
今度こそ、ありがとうございましたとさよならを告げるとまたなと返される。
ナナシロさんから南那城さん、そしてメィジさんに変化し、また、があることがとても嬉しい夜
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