魔法少女リリカルなのは〜祝福の風の精霊と時の旅人〜

□第一話
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いつから私はここにいるのだろう。

あの時からずっと私はここにいた。
ここには何もない。ただ、私はここにいる。

私はかつて、祝福の風、リィンフォースと呼ばれていた者。
しかし、今となってはその名前に意味はない。
この名前は今は主の新しい祝福の風に使われているだろう。
あの事件、闇の書事件で私は、最後の夜天の主、八神はやてに出会い、その因果を断ち切っていただいた。
主達を助けられたと私は嬉しかった。



だが、その結果の代償も大きかった。

闇の書とのリンクを断ち切った結果、私の体は修復機能の損失という治しようのないダメージを受けた。
もう私の体は治らないのだ。
さらに、消し去った防衛プログラムもいつ活動再開するかわからない状態という現実を突きつけられた。

近づく死
再び主達を巻き込み兼ねない恐怖が私を縛りつける

その死から逃れられる方法など、あの時の私には存在しなかった。


そして考え続けた。その死から逃れられないのならば・・・・



主の為に出来ることをしようと



徐々に私はある考えを抱く。

主や守護騎士達、協力してくれた2人の魔導士と管理局の人達。

彼らをこれ以上、迷惑をかけるわけにはいかない。

そして、考えた末、私は闇の書と共に消える道を選んだ。

主はもちろん反対してくださったが、最終的に私の願いを聞き届けてくれた。

今はきっと、新しい祝福の風が主を支えてくれているだろう。




そして、私は今ここにいる。
ここは無という世界。
その世界で私はただ漂う。
何もなく、ただ静寂だけが過ぎてゆく。
このまま私は、この世界の中で、消えてゆくのだろう。

しかし、後悔はない。
主を、守護騎士達を救う事が出来たのだから・・・・・





いや、一つだけ願いがある。

でも、それは無理な話だ。
今更そんな事を願っても結果は変わらないというのに



「でも・・・・私は・・」

気づけば、勝手に言葉にだしていた。
その願いを、今の私が想う、たった一つだけ願いを・・・・・



「主やみんなと、もっと一緒に生きたかった。」

言葉とも涙が溢れ出してくる。
いくら拭っても涙は止まらなかった。

この言葉も願いもやがて消えてしまうのだ。

そう思い、私は俯いて泣いた。
泣いて泣いて、泣き続けた。




そんな時だった。



『だったら生きればいい』


「・・・・・・・・・え?」



急に聞こえてきた声に、私は驚いて顔をあげた。

いつからそこにいたのだろう。
私の目の前に一人の青年が立っていた。歳はおそらく10代という位の体格。
短く切られた黒髪に目は透き通った蒼色。
その眼には私は意識が吸い込まれそうな感覚に襲われた。

まるで、何もかもを見通すかのようなそんな眼だった。
その青年はずっと私を見つめていた。

「あなたは・・・」
私の問いを言う前に彼が先に口を開いた。

『只の旅人だよ。』

まるで、私の考えをわかっているかのような答えだった。

(只の・・・・旅人?)

私は彼の答えに疑問を抱いた。
その事を含め、私は次の質問をした。

『あなたはどうして、ここに?』

ここは、無の世界だ。
普通の人間が来れる世界ではない。
まして彼は自分を旅人と言った。

この世界は死んだ者にしか来ることが出来ない筈。


なら、彼は?


(彼もまた死んだ人なのか?)

そう思っている最中、彼がその問いに答える。


『別にたいした事じゃないさ。』

彼が答え始めた。

『確かに、この世界は死んだ者にしか来ることが出来ない。でも、例外ってのもあるんだよ。』

彼の答えに私は只、聞くことしか出来なかった。

彼の話は続く。

『どの世界にもそういった決まりというか掟というのがある。例外というのはその掟に影響されない者の事、つまり俺って事さ。』

「はぁ・・・・・」
彼の答えは私を更に混乱させただけであった。
結局のところ、この青年が何らかの特別な存在であり、だからここにいるという事は理解出来た。

『まぁ、ここにいるのは理由があるんだけどね。』

「理由?」

いつの間にか私は聞き返していた。
何故か、彼が此処にいる理由を知りたくなったのだ。


『この世界へ着いた時に聞こえたんだ。君の声が、願いがね』

「私の・・・願い?」

『あぁ、言ってたろ生きたいって』

彼は笑顔で語りかけてきた。
それは私が先ほど呟いた言葉。
叶わないと思った願い

私は俯いてしまう。
正直、とても嬉しかった。
つい、笑顔になってしまいそうになる。


でも、同時に無理だともわかってしまう。

「ありがとう。でももういいのだ。」

『・・・・・』

私の言葉に青年は、黙って私を見つめる。

「私は、自ら死を選んだ。大切な人達を守るために。だから・・・『それでも、生きたいんだろ』えっ!?!」

私の言葉を遮るかのように彼は口を開く。
その表情は先ほどから変わらず笑顔で


『あんたは、生きたいと言った。だったら生きればいいんだよ。自分の道を進めばいいんだよ。』


私の瞳から、再び涙溢れ出す。
それは悲しさではなく嬉しさからの涙。

絶望していた私の心を少しずつ癒していく。

『もう一度、生きてみない?』


「・・・・・はい!」

私は頷き、涙を流した。
嬉しかった。生きていいとそう言われた事がたまらなく嬉しかった。

それを見た彼は笑顔で私に、近づき、手を私の頭にのせて優しく撫でてくれた。そのまま私は彼の胸に顔をうずめて泣き続けた。

撫でてくれる優しさと彼の暖かい温もりにたまらなく嬉しさを感じながら・・・





幾分かが過ぎ、彼は手を離し、語り始めた。


『今から君を新しい命に転生させる。』
「転・・生?」

『そう、今君には実体がない、だから俺の体を媒介にして君を新たな存在に変えようと思う。そうすれば、この世界から出られるし。』

「新たな存在ですか?」

いきなりといってもおかしいぐらい話に私は只、わけが分からなかった。

『うん。さすがにそのままだと幽霊の類とかになるし。』

「しかし、具体的にどんな存在になるんですか?」

そうだ。今私の状態は幽霊の類と同じだと彼が言っていた。
そう思うとどんな存在になるのかが気になった。

『ん?そうだなーー』

彼は腕を組み、幾分か考える顔をした。
そして・・・・・

『よし!じゃあ精霊なんてどうだろうか?』

そう呟いた。閃いたかのように手を叩きながら


「精・・霊ですか?」

私は一瞬彼の言葉が理解出来なかった。

『そ!簡単に言えば世界を理を創る者をそう呼ぶんだよ。世界を構成するマナっていう生命エネルギーを管理する役目を帯びてるから、ちと大役かもしれないけどね。』


「しかし・・私がそんな大役をするわけには・・」
『いいんだよ。それに、こうでもしないと、このままのままだし。』

「そうですか・・・」

私は考えていた。
彼のプランは至ってシンプルなものだが、反面もの凄くリスクがあるものだ。

精霊とは、世界の理を創る者と彼は言った。つまり、私のちょっとした事で力を振るえば、世界そのものを危険にあわせる可能性もあるのだと彼は説明してくれた。
だから、大丈夫なのかと言うと、彼に『力の使い方は後でしっかり教えるよ』と言われたので、ひとまずその話は保留となった。



『じゃあ今から、するけど、覚悟はできてる?』

彼はそう切り出した。
一度転生すれば、もう元には戻れない。そう彼から聞いた私は少し考えた。

(我が主に逢いたい)

その想いは変わらず私の胸の中で残っている。

もし、再会した時、主は喜んでくれるだろうか?

私はもう、死んだ身なのだ。

そんな私が主と会っても良いのか?

私の疑問は膨らむばかりだ。

そんな私に彼は

『別に、今すぐ答えを出さなくてもいいよ。旅を通して答えを出せばいいから。』

そう言ってくれた。

不思議なものだった。
彼の言葉は自然と私の考えを浄化するかの様に私の心に入ってきた。

そうしている内に私の心は覚悟を決めた。

「今はまだ答えは出せない。」

多分、私は傲慢なのかもしれない。

「けど、生きてその答えが見つかるのなら・・・」
それでも私は主に会いたい!

だから・・・・

「私は精霊になろうと思う。」

これは私なりのけじめだ。
たとえ、答えが出なくてもいい。
今はそれで充分だと思うから

私の言葉を聞き、彼は頷いてくれた。

それでいいよと言うかのように。







そして・・・・・

『じゃあ、いくよ』

彼はそう言うと、静かに目を閉じた。その瞬間、彼の足元に私が見た事のない巨大は魔法陣が出現した。

魔法陣は彼と私を包み込むかの様に展開した。

彼は相変わらず目は閉じたまま呟く。

『我、時の旅人の名において!』


その声はどこまでも響くかの様な声

その姿はまるで、聖人の様だった。
『今ここに・・・新たな生命を宿せ!』

そう彼が叫ぶと同時に、足下の魔法陣から眩い光が私の体にが入りこんできた。

それは、とても冷たい様な、でもとても暖かい様な感じ。

まるで、私が何かに変わっていくかの感じだった。

それは数分くらい続いた。

(これは、一体?)

私がそう思っていると、やがて突如それは感じなくなった。
気付いてみると、彼の魔法陣もなくなっており、彼の顔には疲れたように大量の汗が流れており、息をかなり荒くなっていた。

「だ・・大丈夫か?」

『あぁ、少し疲れただけだから。』

そう言って彼は座り込んだ。
よほど疲れることなのだろうと私は思った。

『それより、体はどう』

彼が私の顔を見ながら訪ねてきた。

「あぁ、確かに先程とは何か違うのはわかる。」

私はそう言いながら自分の体を見た。

外見は変わった所はなさそうだった。

だか、何だろう?

体の中から溢れんばかりの力が漲ってきているのが、手に取るかのようにわかる。

「これが・・・・精霊か?」

『そう、世界の根源たる存在さ。』

彼の言葉に私は軽く手を握る。

もうあの時の私ではない。

今の私は・・・精霊






そう・・・・・・・・





「祝福の風の精霊・・・・リインフォースだ!」





今ここに、祝福の風は新たな命を受け、生まれ変わった。

彼女と彼の物語はここから始まりを迎えた。

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