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□五話
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千鶴が手伝った 夕餉をセシルは 千鶴と幹部達と広間で共にした


「口に合いますか?」

心配そうに千鶴がセシルに聞く

『……これは 何の野菜かしら?…』

千鶴の問いを聞いていたのであろうか…
セシルは 小鉢の漬け物を掲げて、質問を質問で返した


『えっと… それは壬生菜というものですよ』

自分の質問を無視されたのにも関わらず きちんとセシルの疑問に答える千鶴


『…壬生菜………』

復唱するセシル

「はい!壬生菜です 気に入りましたか?」

笑顔で聞く千鶴

『…………これは 前いた所にはなかったわ…………』

質問の返事には なっていないよな…

その場にいたセシルを除く全員 同じ心中であったであろう

「前いたところ…ですか?」

会話としては成り立っていないが 言葉のやり取りをしているだけでも 嬉しいのであろう 千鶴は気にしない方向で 声を掛けていく

『…………………長州藩邸…』


ぽつりと 呟くようにセシルの口から放たれた単語

それは 新選組幹部がもれなく反応するには 充分な言葉であった


その反応を 無表情に ジッと見つめるセシル


「…ねぇ 長州藩邸って どんな所だったの?」

沖田が 貼り付けたような笑顔で聞く

『…………………』

そっと瞳を閉じて 俯くセシル

千鶴の質問には 質問内容とは全く関係ないことだったが 確かに言葉を返していたセシル


「なに? そんなに言えない所だったの…?」

いきなり黙り込むセシルに 怪訝そうに聞く沖田

周りの幹部達も セシルの答えを 待っている


ちょっとピリピリとした 緊張感のなか

そっと瞳を開ける


『そうね……つまらない所だったわよ……』

沖田を真っ直ぐ見つめて少し目を細め 首を少し傾け 呟くセシル

表情とまでは言えないが 初めて見せる無表情以外の 顔であった

『ただ……』 無表情にまた戻ったセシルは 言葉を続ける


『変わったものには………会ったかしら…』


一旦 置いた箸をまた持ち 食卓を始めるセシル

「変わったもの…?」

平助が首を傾げてる


『今まで あのようなものに会ったことはなかったわ… とても興味深い my masterだわ…』

ポリポリと食べていた 壬生菜の漬け物を飲み込み どこか遠くを見る様に答えるセシル


「まい…?…何だ、それは?」

斎藤が 慣れない英語の意味を問う

『…その友達と名乗るものも なかなかの珍品だったわ……』

思い出すように 言うセシル

斎藤の話は聞いていなかったのであろうか


ポリポリと また壬生菜の漬け物を食べ始めるセシル




結局 会話は噛み合わない セシルと新選組


晩餐会と呼ぶには 些か 貧相な 夕餉を新選組と 初めて 共にした少女


少女の報告を 胸に抱えて 食事を取る 原田



セシル ローズという 不確定要素



彼女が広間を去るとき

『不味くはなかったわ…』

そっと呟かれた言葉は 騒がしい 新選組のおかず争奪戦の騒音の中に 消えていったのあった……



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