Rewrite The Transcendental

□クリスマス特別編
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 とある祭日。
 キリストの誕生日の筈が、いつの間にか恋人の為の日になっているのは、広告代理店の策略の成した技だろう。 
 俺がそれを思い出したのは、珍しくクロスワードをしていたからである。

 発端は、俺のこの言葉。

 「なあ。12月25日って何の日だ?」

 「「「「!!??」」」」

 談笑していたオカ研の部室に衝撃と沈黙が走る。
 大食い魔神などと呼ばれる鳳までもが手を止めてこちらを見ている。…俺が何か悪いことでも訊いたか…?

 「れ、零夜…。クリスマスを知らないのか…!?」

 「ず、ずっと寺や神社で生活していて外界と干渉していなかったというマンガみたいな生い立ちなのか…!?」

 「あ、クリスマスか」

 周囲の驚きを無視してクロスワードに戻ろうとするが、それを許すようなことは無かった。特に天王寺と此花が俺を心配そうな視線が気になる。

 「12月25日がキリストの誕生日ってことは知っている。だが、4文字でその日を表す言葉が俺の頭に無かったから、訊いただけだ」

 面倒なことに発展しそうな雰囲気に押されたのか、俺は顔を逸らしながら言った。
 
 「なあ、ここは何をするか分かるよな、小鳥」

 「いえっさー!クリスマスを知らない青野君の為に、クリスマスパーティを開こうではないかぁ!」

 「会長!」

 「別に良いわよ」

 「静流!」

 「サンマは忘れない…!」

 「よし、サンマは置いておいて。明日はクリスマスパーティだ!」

 やっぱり…、と溜息を吐く。
 ここまで付き合いが長いと、自然と行動が読めるようになってしまった。
 さらに、この空気は拙い。会話の流れからして、俺のため、という大義名分が上がっているため、俺は断ることが出来ない。いつか、ここで鍋を皆でつついたことはあったが、本音を言えば、参加したくない。

 「咲夜に料理を頼んでおきます」

 だが、鳳も乗り気で、千里会長も了承したため、八方塞がりとなってしまった。
 
 「ああ、分かった。で、何時に行けば良い」

 「おお、クリスマスに興味津々な零夜からの質問だ!集合は、1930《ヒトキューサンマル》。各自必要なものは追って伝える!」

 「「「「おぉー!」」」

 こうして、オカ研の部室でクリスマスパーティが開かれることとなった。





 12月24日。
 俺は風祭市内のヅャスコとやらを神戸と共に歩いていた。
 普段、神戸と行動をすることは珍しい。基本、天王寺と神戸でワンセットだからだ。だが、今回は、千里会長を除く他のメンバーでの買い出しもあるため、彼女と行動していた。
 で、このヅャスコ。どこかパクってないか、ってほど商品やらロゴやらが似ている。神戸はそれを気にせず、安い、ということを理由にここを頻繁に利用しているらしい。

 「それにしても、以外だねぇ。青野君がクリスマスを知らないなんて」

 「………広告代理店に踊らされているお人形」

 「おわっ!?それ、全世界のカップルに喧嘩売ってるよ!?」
 
 俺の発言は変なのだろうか。
 神戸は品定めしていたときに、驚いた顔で振り返った。

 「カップルがイチャイチャするんじゃなくて、もっとキリストを祝え」

 「まるで彼女が出来ない僻みみたいだよ………」

 僻み?そんなわけ無いだろう。
 はぁ、と溜息を吐きながら、俺は手に持っているカゴの中に入っているキラキラした装飾やらを視線に入れた。
 これ全部をあのオカ研の部室に飾るらしい。

 「さて、レジに行こう」

 最後に先の方に白い綿?が付いた赤い帽子を数個入れると、神戸はレジへ向かいだした。
 俺は、緩んだ右手に軽く力を入れ、カゴを持ち直した。

 精算が終了し、外へ出ると、空は分厚い灰色の雲に覆われている。そして、道ばたには純白の物体が。…そう、雪だ。

 「わぁおー、本当に雪積もってるね」

 大して厚着でもない神戸は何故か平然としているが、俺は本能的にコートの前を閉めた。そう言えば風祭で…、日本で雪を見るのは初めてのような気がする。 
 いや、今はそんなことはどうでも良い。

 「早く学校に行くぞ…」

 俺は右手に荷物を持ち、先に歩き出す。
 雪に見とれる人間の気持ちはよく分からない。そんなに雪が見たけりゃ、北欧でも南極でも行ってこい…。




 校内もかなり冷え込んでおり、オカ研の部室との気温の差に、ヒートショックで倒れるところだった、…まったく。
 部室内には、千里会長の姿も見あたらず、メモ書きが残してあった。

 『部室の飾り付けよろしく。あと、零夜にプレゼント確認!』

 筆跡からして、天王寺が書いたのだろう。
 このメモに書いてあるプレゼント、というのは、天王寺の発案によって行われることになったプレゼント交換のことである。

 「それなら、用意してある」

 「あ、そうなんだ」

 俺に確認しようとした神戸より先に言っておく。大した物ではないが、そこまで使わないものでもないと思う。
 神戸によると、まだ買い出しをしている、とのこと。
 俺たちは取り敢えず、部屋の飾り付けを始めた、…渋々。
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