Rewrite The Transcendental
□第六章
1ページ/6ページ
(さっさと来てさっさと終わらせろよ………)
零夜がそう思ったのは、チャイムが鳴ったにも関わらず、授業の担当教師が来ない状況に眠気を感じていたからである。
当然喋りだす者もおり、教室は自然と休み時間の空気となっていた。
「みんな静かに自習を!私は職員室に先生を呼びに行ってくる!」
ルチアは粛正を訴えるが、教師を呼びに彼女が職員室へ行くと、また教室の喧騒は大きくなった。それに反して零夜は肘を机に突きながらうとうとしており、瞼を閉じかけていた。
(人は眠気に勝てない………)
尤もらしい理由をこじつけて突っ伏そうとしたときに、後ろのほうの席にいる瑚太郎の声が耳に入ってきた。
「お、猛獣だぞ、吉野。ライオンとハイエナの仲間じゃねえのか、あれ?」
「何ぃ…!ど、どこだ…!?」
続いて吉野の狼狽えた声も聞こえてくる。
何事かと零夜が振り向くと、瑚太郎はすっと廊下を指した。
そして、他のクラスメイト達も、瑚太郎が指差す先にいる猛獣の存在に気付いた。
(………ああ、そういうことか)
少し頭の中で整理すると、瑚太郎の行っていたことに合点がいった。廊下にいたのは猫。たしかにライオンやハイエナの仲間だ。
「ウィンナー、食べるかねえ?ほれ」
「にゃ〜〜〜〜〜〜〜〜」
ネコ科の猛獣、もとい、ネコ科の猫は、小鳥が放ったお弁当のウィンナーに嬉々として飛び掛かる。
「可愛らしさと安らぎが貰えますよ。とても貴重な成分です。それに、猫だけでしか得られません」
猫はたちまち教室に迎え入れられ、ちやほやされながら、次々に弁当のおかずを頂戴している。これで一日の摂取カロリーを易々とゲット出来たな、と零夜は考えていた。
(どうやって紛れ込んだんだよ。しかも、教師に見つかって追い出される→生徒が文句を言う→授業にならない→授業時間短縮により、補習………。最悪だ)
零夜の中では、猫の侵入が補習に繋がったらしく、机に突っ伏した。
「猫は人間とは違ってやさしさもあるんです」
(それは人間にはやさしさがないと捉えて良いのか………)
ある意味、重大なセリフである気がするのだが、ここは心の中でのつっこみに留めておく。
すると、一匹が廊下に出ていった。どうやら、もう一匹を説得しているようだ。
《零夜の頭の中》
『なあ、早くエサをもらおうぜ!』
『ダメだ。俺は媚びることなんてしねえ』
『そう言うなって。生きていくためだろう?』
〜終了〜
「ヤツは媚びてエサをもらおうことが許せないのさ。ハンターに生まれた者のプライドだろうぜ」
「エサ、食べればいいのに………」
「あいつは不器用なんだろうな。奇妙な親近感を覚えるぜ。」
「男はいつまで立ってもプライド優先だねぇ。なんて会話しているのか、想像がつくなぁ」
すると、瑚太郎が唐突にエサを食べようとしなかった猫を抱きかかえた。勿論、猫は威嚇したり、暴れたりした。
「わわ、その子、どうするの?」
「憎まれ役を買えと電波が来た。素直になれんヤツには力尽くあるのみ」
そして、瑚太郎がウィンナーを口の中に詰め込み、素直に食べ始めた。
(この時間に学ぶ三角関数…だったか?そいつはどうなっても良いのか?)
猫の登場に舞い上がっているクラスメイト達を見て零夜は溜息を吐く。端的に言えば、放っておけば良いのに、ということだ。
「こ、これは何事だ!?皆、何をしているんだ」
「ネコ科の猛獣が紛れ込んで大パニックだ」
「も、猛獣とな!?」
「勿論、冗談だ」
零夜の軽い冗談を信じてしまったのか、驚くルチア。だが、冗談だと言われて少し困った表情になった。
「ちょっと信じてしまったじゃないか…」
「事実だったら、その純白の拳で立ち向かうつもりだったのかよ…」
「それがクラス委員長の務めだ。」
熱血なのか、何なのかは分からないが、呆れるほど委員長を務めようとするルチアに溜息を吐く零夜。彼自身もまさか拳で立ち向かうとは思っていなかったようである。
→
次へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ