◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 8 * あの日とそれから
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あの事件があった後から、鈴川は俺とよく話すようになった。
鈴川に対して悪意を持っているのは、数名の女子だった。
学生の頃もきっと大人になってもそうだと思うが、変わらないのは悪意を持つ動機なんて、そんな大したことがきっかけじゃないことが多い。
たまたま、自分の波長に合わないとか、逆に自分が理想としているような人間が自分のテリトリーに現れたとき、
自分の存在を否定される危機感や僻みから勝手に敵視することだってある。
きっと、首謀者は鈴川のことが好きなのかもしれないとも思った。
俺だって、あんな事件が起こらなければ、鈴川に憧れていても、どこかで引け目を感じている自分がいただろう。
今は、ホントに裏表のない鈴川の人柄に触れて、こんな自分でもいいんだって少し思えるようになったから、こうやって落ち着いて人のことを分析できるけれど、だから、今、鈴川を敵視している人間の気持ちも少しは分かる。