◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 12 記憶の置き場所 *
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普段ならめんどくさいと感じる会話が続いている中、さっきの気まずい雰囲気が、いつの間にかなくなっていることに、少しほっとしている自分がいる。
環先輩は、すごくめんどくさくて、バカに見える時もあるけど、意図してかどうかわからないけど、周りをまとめて引っ張っていける力はすごいなと思うときも……たまにだけど、ある。
「ハルヒ。とりあえず、ノルマクリアおめでとう」
騒がしい自分の輪の後ろから、いたって冷静な声で話しかけられた。
「あ、鏡夜先輩。先輩も来ていたんですか?」
「ああ。部員の成績をチェックすることも、部の責任者としては当然だからな。な?環?」
まだ双子とふざけている環先輩に鏡夜先輩が話しかける。
「そうだとも!ハルヒ、首席キープおめでとう!!!」
嬉しそうに、環先輩も自分に言ってくれた。
「あ、ありがとうございます。環先輩、鏡夜先輩」
自分のことをこんな風に、ほかの人が喜んでくれるのは、まだ、ちょっと慣れないし、不思議な感じがする。
「ハルヒ、お前と同位だった鈴川志衣里という生徒は有名なのか?」
唐突に、鏡夜先輩が尋ねてきた。
鏡夜先輩ですら知らない情報があることも意外だった。
「え?有名なんですか?彼女?自分は全然知らなくて……。ただ……」
「ん?ただ?」
「あ、いえ。ただ、名前をどこかで見たような気がするんですが……、全然思い出せないんです。でも、鏡夜先輩が気にするくらい有名な人なら、自分もどこか新聞や雑誌で見ただけなんでしょうね」
「そうか。」
鏡夜先輩もそれだけを言って、言葉を切った。
自分も、自分が感じた鈴川志衣里って人への気のせいを、そんな理由に落ち着かせた。
「おい、環。そろそろ行くぞ」
そう言って環先輩を引きずるようにして鏡夜先輩は二人で教室へ戻っていった。
自分も光馨と一緒に何事も無かったように教室へ戻った。