◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 14  水無月から文月へ *
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14.1志衣里side

帰国してから、あっと言う間の2か月だった。

お金持ち学校だからなのか、私を取り巻く環境を大きく変えられてしまったことでなのか、たくさんの人と出会った。

祖父に初めて会ったのは、そんな中でのことだった。

私には三人の祖父がいる。
一人は今、目の前に座っている。血が繋がっているのに、今まで会ったことも話したことも無い。
そして、この祖父とは別に血が繋がっていて、私に合気道を教えてくれた母方の祖父。
たくさんのことを教えてくれて、いつでも味方でいてくれた。
そして三人目はイタリア人の父方の祖父だ。

学園での学績とノルマの美術部への入部や、国立美術館のパーティーに行くために、2番目の弟子の朔太郎氏に会ったこと、
それに図書室で起こった騒動のことまで、こちらが話さなくても、既に祖父の耳に入っていた。

初めて来た祖父の家、というよりも豪邸。
外からは長く高い壁があり、厳重なセキュリティーが敷かれている。

祖父の名は階嶺 堅太郎(しなみね けんたろう)、人間国宝でもある陶芸家で、現在は年にいくつかの作品の制作を行っているが、
一族は代々続く陶芸家・芸術家の家系で、日本最大の美術品を扱う会社をグループ経営しており、祖父はそこの会長でもある。

陶芸界での絶対的な権力はもちろんのこと、美術品を扱う貿易会社をはじめ、経済界へも大きな影響力を持っている。

静かな庭園が見える生活感の全くない部屋に通され、初めて祖父と対面した。

「日本での生活はもう慣れましたか」

低く穏やかな声で祖父が最初の言葉を話す。

「はい。おかげさまで。ありがとうございます」

最低限の返事を返し、私は深く頭を下げる。

「学校での様子は、執事より聞いていますよ。美術部にも入って、学業でも後れを取らず頑張っているそうですね。しかし、どこの世界でも、人は優秀な者への羨望から妬みが生まれ、いらぬ争いを招くことがあります。先日のことはそういった類の仕業でしょう。最初に伝えているとおり、志衣里。あなたの安全を思って、学校では目立たぬように、私が配慮していることを、これからも忘れずに過ごしてください」

孫の私に終始丁寧な敬語で、笑みを絶やさず話しかけているように見える。
しかし、祖父の目は一切のことを許さず、こちらの気持ちや事情を何一つ受け入れるつもりはないと語っている。
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