◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 19 嫉妬するイキモノ *
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「鏡夜先輩、何考えてるの」

何故、馨がそこまで苛立って、俺に意味の分からない絡みをしてくるのかが理解できない。

「何か俺に怒っているように見えるが、彼女が落馬したのは、今回のツアー企画は関係ないだろう。それに結果は残念だったが、何より、鈴川さんが無事だったことが一番だと思うが?」

いつもの調子で馨に言う。

「鏡夜先輩、ちょっと」

しばらく黙り込んでいた馨が、俺の腕を引っ張って、控室の外に連れ出す。

「鏡夜先輩にとっては、利用価値のある相手って程度なのかもしれないけど、こういう時くらい、純粋に、心配とかできないの?」

珍しく真剣に、当たりのきつい言い方を馨がする。

「勿論、心配はしている。彼女が世界的に実力のある作家だということは、俺も知っている。馨が彼女の怪我のことを心配したように、俺もそのくらいは人間らしさを持ち合わせているが、何故、それが俺に対して苛立ちをぶつける理由になるんだ?」

「本気で、それだけって…思ってるの?なら、案外、鏡夜先輩もお子ちゃまなんだね」

そう言って馨は控室に戻っていった。
自覚がないわけじゃない。
馨と彼女を見て抱いた感情は、これまでに感じたことのある悔しさや諦めとは全く違う。
まるで別の生き物が、自分の中に生まれてきたようだということは、分かっている。
今、彼女と初めての言葉を交わしたら、苦戦し続けてきた彼女とのゲームはあっさりと終わってしまうだろう。
その時の敗者は、勿論、こちらだ。

―純粋に、か…。

そんな風にできたら、俺の中に生まれた、このイキモノを飼いならせるだろうか。
俺にとっては、確かに、これ以上ない面白いゲーム=彼女、というわけか。


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