◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 1 * 遅れてきた新入生
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封筒の中身は彼女名義のカード、添えてあった暗証番号のメモをはがして、丸めて近くのゴミ箱へ投げ捨てる。
その視線の少し上にサイドテーブルがあり、そこには真新しいローズピンクの携帯電話が充電器に立ててあった。
まるで留守番をしていた子犬のように彼女が手に取るのを待っているかのようだった。
携帯のメモリーには伝言のとおり連絡先の「執事」1件のみ登録されていた。
少女=ピンクというセンスが年寄りらしいが、それも精一杯の祖父のまだ見ぬ孫への機嫌取りなのだろうと、志衣里は少しおかしくなった。とりあえず、キャッシュカードと携帯電話を元のところに戻し、一緒に旅をしてきた荷物を解いてやることにした。

クローゼットを開けると、そこには1着だけ洋服が掛けられていた。
いかにも、お嬢様という感じの淡いイエローのふんわりとした形のワンピースだった。
どうやらこれが明日から志衣里が行くことになる私立桜蘭学院高等部の制服らしい。

その制服を取り出して部屋にあるコート掛けにハンガーごと吊るした。
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