◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 4 * かわされた敵意
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しかし、とうとう、悪意をもって事実無根の噂を流していたと思われる連中が鈴川に接触してきた。
鈴川はいつものように美術書を図書室のテーブルに広げ、何かスケッチブックにデザインしていた。
そのテーブルをぐるりとあっというまに囲まれてしまったことにも気がつかないくらい鈴川は描くことに集中しすぎていた。
ちょうど俺は本を返した後で図書室の中を歩きながら鈴川がいつも座っているテーブルを何の気なしに見た瞬間のことだった。
―え?・・・あれ、やばくないか?
そう思って、思わずそっちの方へ向かう歩みが速くなった。
しかし、連中の行動の方が先手を取って、鈴川が見ていた美術書を隠すようにしてリーダーらしき男子生徒がテーブルに片手をついた。
「・・・・」
見覚えのない奴らだったので他のクラスか先輩だろう。
にっこりと彼女を見ながら奴は何か声をかけている。
図書室というのもあって、さすがに相手も小声で話している様子だった。
鈴川もさすがに気付いたようで椅子に座ったまま筆を止めて奴を見上げている。
そして、何か一言二言やりとりがあって、鈴川はスケッチブックと本を片付け、それを抱えて席を立った。
そして、ぐるりと囲まれている間を何もなかったように通り抜けて、図書室の出口へ振り返らずに歩いて行った。
取り残された連中は一瞬あっけにとられていたが、すぐに彼女のあとを追った。俺も、あわてて出口に向かって廊下に出た瞬間だった。