◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 4 * かわされた敵意
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その声にやっと立ち止り振り返ると、でっかい本とスケッチブックを必死で落とすまいと抱えている鈴川がいて、
もうすぐで校門を出てしまうところまで走ってきていた。
「あ、あれ?ど、どうして、俺のこと?」
連れ出したのは俺の方なのに、とんちんかんな質問を口走った。その質問に鈴川は笑い出して、答えた。
「だって同じクラスじゃない。笠野田律くん。私の斜め後ろの席でしょ?」
―俺のこと、覚えてくれてたんだ。
そう思うと嬉しさと恥ずかしさが同時に湧きおこってきた。
「びっくりしたよ。急に現れて、腕つかんで走り出すから。」
まだ、鈴川はけらけらと笑っている。
さっき起こったことがまったく何もなかったかのように。
あわてて、まだ掴んだままだった鈴川の華奢な腕を放した。