◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 19 嫉妬するイキモノ *
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ハルヒ父との電話を回想する―――
『志衣里ちゃんのお母さん、たしか、名前は和花(かずか)さんだったかな。お父さんは、志衣里ちゃんが生まれる前からいなかったらしいわ。若くして志衣里ちゃんを一人で産んだみたいだけど、いつ会っても明るく笑顔で、苦労もあっただろうけど、誰にでも優しい人だったわよ。それが、住んでいたアパートが火事になってね…。』

彼女の母はその時の火事で亡くなったらしい。ちょうどその頃に、ハルヒの母も他界したので、彼女にお別れも言えないまま、数か月してイタリアの伯母夫婦に引き取られていったことだけを聞いたそうだ。

俺や環も、いや、誰にだって「家」や「過去」に、何かしらのものを背負っていたり、そういったものに今も未来も支配されてしまっているような気持になったりする。

彼女はどうなんだろう?

ハルヒ父から聞いた話は、それまで俺が集めていた彼女についての華やかでミステリアスな情報を一変させた。
俺が見る彼女の姿や、周りからの情報では、学園に通うために素性を明らかにしていないこと以外、彼女はいつも笑っていて、日向をあるいているだけの普通の人に見えていた。父からの命令でなければ、俺には何の興味も沸かない、メリットも無い人間だっただろう。
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