◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 19 嫉妬するイキモノ *
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俺が言いかけた時に、会場全体が揺れるように、観客たちが一斉に声を出した。一瞬何が起こったのか分からなかったが、馬場を見ると、障害物が崩れ、騎乗していた鈴川志衣里が地面に転がっている。

―え!

環をはじめ、ホスト部は身を乗り出して彼女を心配している。
どうやら、最後の障害物を飛び越えるときに、馬の脚が引っかかってしまい、馬ごと転倒し落馬したようだった。
その光景を目の前にして、俺の考えていたことが真っ白になった。
そして、無駄な経路が立たれた俺の思考は、ただまっすぐに、他の部員と同じように彼女のことを心配している。

馬が先に立ち上がり、そして彼女が立ち上がった。数十秒のことだったが、時間が静かに鈍く流れた。
起き上がった彼女は、再度、騎乗し、最後の障害物を飛びなおして競技を終えた。


最後の障害物での転倒がなければ、優勝も狙えていたはずだった。
しかし、彼女の結果は入賞すらできなかった。
大会が終わって、やっと出場した選手の控室に行くことができた。
鈴川志衣里は残念な結果になったとは思うが、最後まで騎乗できたことで、俺は大事には至らなかったのだと軽く考えていたが、一人だけ、控室で彼女と会うまで、感情を押し殺している人物がいた。
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