◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 19 嫉妬するイキモノ *
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モリ先輩と合流した後、彼女の控室で、一番に駆け寄ったのは、馨だった。

「シェリー!大丈夫なの?!」

その勢いに彼女の方が驚いている。

「え…?え?どうしたの?馨君」

「だって、さっき…落馬したの見て…。もし、シェリーが怪我でもしちゃったらって…」

「大丈夫だよ。ありがとう。皆さんもご心配をおかけしてすみません」

彼女はそう言ってこちら側の面々にも謝罪した。
馨は彼女に、指や腕に怪我がないかを何度も確認している。

「作家なのに…無茶しちゃダメだよ…」

そんな馨の一言に、彼女は少し驚いた顔をした後、柔らかく優しく微笑み返し、再度礼を言った。馨もそんな彼女の空気で、やっと我に返ったようで、自分が取った行動に、今更になって赤面している。

馨のそんな姿を少し複雑そうに光が見ていた。
しかし、複雑なのは光だけではなかった。

―まさか、この俺が…?

ハニー先輩の仕掛けは、俺の理性を外すトリガーだったようだ。
俺自身の迷宮入りしそうな感情は、覚醒しはじめた。
まさかだと思いながらも、馨と彼女を見ていると、感情を止めることができない。

その後、皆が次々に彼女に声を掛け、無事でよかったことと、競技の結果に労いの言葉を掛けている。
そんな様子を見ている馨が、皆と少し離れて立っていた俺の方を見て、目が合った。
その目は、何故か少し苛立ちを含んでいた。
そして、俺の方に馨は静かに近付いてきた。
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