◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 20 アシンメトリーとシンクロ *
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馨の変化には、もちろん、気が付いていた。
馨が鈴川さんの記事を大事に持っていたことも知っていたし、彼女の作品を一目見て好きになった馨のことも、同じ感覚を持っている俺には十分理解できた。
でも、さっきの控室での馨は、「少しだけ俺と違うところ」だった。
俺たちも自分の部屋に戻ってから、ストレートに馨に尋ねた。
「あのさ、馨。もしかして、鈴川さんのことが好きなの?」
見たことも無いような馨の驚いた表情の後に、馨の顔が真っ赤になった。
「なに?急に…?」
「いやだってさ、控室の時のお前の様子、誰がどう見てもそう思うじゃん」
馨は俯いて、しばらく黙ってから、話し出した。
「光は誰かを好きになったことってある?」
「はあ?何だよ急に」
「僕は光と二人でずっと過ごしてきて、今はホスト部のメンバーと過ごすようになって、それから変わってきた気持ちとかもあって。でも、それって、自覚していなかっただけで、実は前からあったような気もするの」
馨が言いたいことは、何となく分かる。
俺だって、同じように、昔は面白くなかったことが面白いと思えたり、自分たち以外の人間のことを考えたりすることは、馨が言う変化だと言えるんだろう。
「こないだ、ハルヒの家に行ったとき、シェリーと二人で買い出しに出かけたでしょ?あの時に、シェリーと初めて話がちゃんとできたんだ。それまでは、もしかしたら、光が言うように『好き』ってことなのかもしれないって、思ってたんだけど…」