◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 22 仕返し *
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【志衣里side】

乗馬大会の後、ハルちゃんやハルちゃんの友達から引き止められ、私は思わぬところであの人に「再会」した。

落馬の怪我がばれないうちに、帰宅しようと思っていたのに、私はあの人の別荘にいる。
そして、どうやら怪我が原因で熱も出たようで、気が付いたら、ベッドの上だった。

左肩は手当されていて、頭には氷嚢が乗っている。
見慣れない天井と、広すぎる部屋のせいで、一瞬自分がどこにいるのか分からなかったけど、
私が寝ているベッドの横で、黒い服のおじさんがウトウトしているのが見え、その顔に見覚えがあることで、なんとなく状況を理解した。

ここは、あの人の別荘だ。このおじさんは、あの人のボディーガード。

起き上がろうとして足を動かすと、鈴の音がした。
びっくりして、音の方を見ると、鈴の付いた犬用?猫用?の首輪らしきものが足に括りつけられている。

― 何これ?

その先はボディーガードの手元にまで続く紐が繋がっている。

「…悪趣味なことする」

私の思考と行動を先読みしたあの人が、どんな顔をしてこれを付けたのかを思うと、ドキドキして、可笑しくて、笑いだしてしまいそうだったけれど、おじさんを起こさないように堪えながら、ゆっくりと鈴を外す。

私は帰り支度をして、小さなメモにあの人への「挑戦状」を書き残して、部屋を出た。
出口より先に向かったのは、あの人の部屋だった。

こっそりと忍び込んで、仕返しとばかりに、起きそうにもない彼の、右手首に鈴の音を返した。

大きな手。
だけど、細くて長くてきれいな指。
切れ長の目は伏せられると、どことなく柔らかく、長いまつげが寝息に合わせて微かに揺れる。

― 眼鏡が無い寝顔は、少しだけ子どもっぽいな…

彼でもこんな顔があるんだと、「あの時」の発見を思い出して、また楽しくなった。

「ありがと、鏡夜さん」

小声でお礼を言って、私は誰にも気づかれないように別荘を後にした。
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