◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 21 招かざる客 *
4ページ/4ページ

しばらくして、うちのスタッフの一人である橘が、ホスト部の他の連中には気が付かれないように医者を連れて来た。解熱剤と肩の応急手当てをしてもらい、しばらくして、彼女の苦しそうだった呼吸は、穏やかな寝息に変わった。

それから、俺は橘に買ってこさせた、「あるもの」を手に取り、彼女の足首に括った。

― リン

静止している室内の空気を微かに揺らす澄んだ音がした。

彼女に括りつけたのは、猫用の首輪だ。
我ながら悪趣味だとは思うが、悪い気分ではない。
それを見ていた橘は、見てはいけないようなものを見たとばかりに、部屋をこっそりと出ていこうとしていたので、その動きに被せるように言った。

「おい。何を勘違いしている。これは、逃走防止用の鈴だ」

「…え?」

「どうせ彼女のことだ、明日、また他の奴らに気が付かれないように無理をするだろうし、ましてや、俺が病院へ連れていくと知れば、怪我は治ったと言って逃げるに決まっている。だからといって、俺がここで朝まで、彼女と一緒に居るわけにもいかないだろう」

二人きりで夜を過ごすことに、全くの興味が無いわけではない。
それよりも、馬術部の朝練で鍛えていて、朝に強い彼女の方が確実に俺より早くに目が覚めるとなれば、一晩一緒にいたリスクが俺にとっては、彼女にアドバンテージを取られることになる。
ましてや、ホスト部の連中がそんなことを知れば、厄介なこと極まりない。

彼女の足首に付いた首輪に、長めの紐を引っ掛け、それを橘に渡す。

「俺は自分の部屋に戻る。お前が朝まで彼女を見張っておけ。俺に報告をしなかったことでこうなっていることの責任は、お前が取れ」

そして、俺は部屋の出口へ歩き出し、背中から、情けない声で橘から返事があったのを確認してからドアを閉めた。

「さて明日の朝、彼女はどんな顔で俺を迎えてくれるのか」

飼い慣れない感情を俺の中に落としていき、勝手に強がって文字通り倒れて俺を振り回す。
そんな俺の想定を超えて行動する彼女に、楽しみな期待しかなかった。


次の章へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ