◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 1 * 遅れてきた新入生
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1 遅れてきた新入生

  志衣里がイタリアから日本へ着いたのは午後だった。
飛行機を降りてからも警護のための人間が数人帯同し、それほど多くはない志衣里の荷物と小柄な志衣里を大げさな黒塗りの車で新しい住まいへと運んだ。
車中で志衣里は窓の外を眺めながら、流れる景色の端々が、昔の自分の記憶と重なるところはないか探していた。
志衣里が日本を離れたのはもう10年近く前のこと、小学校に入って初めての夏休みが終わる前だった。夏休みのプールとソーダアイスの映像が、懐古する志衣里の頭には浮かんでいた。
近所の商店街でプールの帰り道に買ったそれは、二本の棒が付いていて、真中から二つに割って食べられるようになっている。
志衣里はそのアイスを半分ずつにして、同じ年くらいの女の子と一緒に食べている。
しかし、志衣里の思い出せるのはアイスの水色と日差しの眩しさだけで、その女の子の輪郭ははっきりとしない。

 ―あの子、元気で暮らしているのかな・・・。 
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