◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 1 * 遅れてきた新入生
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校長室を後にして、また長い廊下を教師に付いて歩きだすと、再びあれこれと話し出した教師がどうやら彼女のクラスD組担任教師で国語科古典担当の明智先生ということがわかった。
志衣里は、少し前を歩き、この学院のことや教師生徒のことを何故か自慢げに話している明智先生のスーツのフラップポケットの蓋が片方だけ中途半端なところで曲がって
ポケット入り口に引っ掛かって止まっていることに気をとられている。
ふにゃっとしているそれが、頬を紅潮させ自信たっぷりに話す明智先生と対峙して志衣里は可笑しくて顔が緩んでいた。
登校してくる時間がピークなのか、先ほどより廊下でたくさんの生徒たちとすれ違う。
そのたびに、生徒たちは一度立ち止まり、明智先生に朝の挨拶をしてからすれ違っていく。
男女問わず、その動きはゆったりと優雅で、上品な雰囲気だった。
明智先生の少し後ろの志衣里に気が付くと、一瞬少し驚いた顔をしてからすぐに笑顔を作って軽く会釈して去っていった。
志衣里の緩んでいる顔が彼らに向けられているわけではなく、明智先生のポケットの形が原因というのは誰も気が付いていなかった。
そして、志衣里は1年D組の教室へと向かう。