◆『どこまでキコエル』長編小説◆
□* 4 * かわされた敵意
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「いや、あの、・・・ごめん。」
「ううん?何で謝ってるの?」
俺は、見てきたことを頭で整理して、鈴川に何から尋ねたらいいか必死で考えていた。
「す、鈴川・・・、さっきの男子・・・。」
「あ、うん。どうやら一つ上の学年の人みたいだね。さすがに場所を考えてほしくて、図書室出たら、やっぱり武力行使してこられちゃって。」
ケロリと言ってのける。
― 武力行使って・・・?
「あ、あいつ、廊下で倒れてたけど・・・。どうした?」
そう聞いたが鈴川からは珍しく直球は返ってこなかった。
「内緒だよ?ケンカするなら相手と場所を選ばないとね。」
悪戯をしたあとのように、鈴川はクスクスと笑っていた。
「・・・大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ。」
そういって、俺の顔をまっすぐに見た鈴川の瞳はすごく強かった。
「ありがとう、笠野田君。ヒーローだね。私の。」
からかうような言い方だったけれど、鈴川は本当に嬉しそうに俺に言ってくれた。
その「ありがとう」を自惚れじゃなくて、俺はちょっと誇りに思えた。