◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 5 * それなら向き合うだけ
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「それで、皆帰った後にチカちゃんが僕にお説教し始めて、僕がふざけてるって怒りだして技をかけてきたの。
でも僕が避けたら、シェリーちゃんがいるところにチカちゃんの蹴りが入ってしまって・・・。」

チカがハニー先輩にいきなり仕掛けて勝負をするのはいつものことだったが、
それに彼女が巻き込まれていたとは驚いた。

「その瞬間、シェリーちゃんは脚で畳に半円を描くようにくるりと体を反転させてチカちゃんの蹴りをかわして、
腕を取って一瞬でチカちゃんを道場の畳に倒しちゃったの。びっくりしたよぉ〜。」

目をキラキラさせて話しているハニー先輩の反応は何か間違っているようにも感じるが、
あのチカが一瞬で伏せられたとはにわかに信じがたい・・・。
これが本当なら、図書室での事件も彼女が制したのだろうか、そうであったらなぜ相手の男子生徒たちも口裏を合わせて「転んだ」と言ったのか・・・。
大ごとにしないため?何か腑に落ちない・・・。

ケーキも食べ終わって、ひとしきりお喋りを終えたハニー先輩が俺の顔を覗き込んで言った。

「ねえ、きょーちゃん。
シェリーちゃんを捕まえるのはたいへんだろうねぇ。」

「確かに。そんな相手では全てかわされてしまいますね。」

ハートや花を出しそうなオーラで意味深に言うハニー先輩に、
俺は見抜かれないようにフィルター代わりの得意な笑顔で応えた。


―かわされるのなら、こちらは先回りして、向き合うだけ。
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