◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* プロローグ *
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体内を彷徨っていた眠気は無くなり、目がさえてしまったので、少しずれたままのアイマスクを大げさに外し、
リクライニングを戻し、サイドテーブルを引っ張り出す。

そして、今までの事とこれからの事を整理するため、手元に資料を取り出した。
自分が置かれた現状だけでもかなり戸惑ってしまうのは、
初めて乗ったファーストクラスだということだけではなく、SPが数人警護していることもあった。

特別扱いされているということではなく、どちらかというと「監視」に近い。

そして、それは「これからの事」を用意している人物の目的を誰にも邪魔されないための監視なのだろうと感じる。

数日前に届けられた分厚い資料には、私がこれから暮らす日本での生活のことが細かく指示されていた。

どの学校に通うか、どこに住むか、生活費はどうするか、どういった義務を課せられるか・・・、そんなことが書かれていた。
 
−日本かぁ・・・。何年振りだろう・・・。

そこを離れる時は自分の意思は無かったが、今、そこへ帰ってくるのには自分なりの意思と目的を持ってこの飛行機に乗っている。

資料の中の「日本での居住先」をぼんやりと眺めながら、住所の文字を指でなぞる。

「あえて、なのか・・・、たまたま、なのか・・・。」

 見覚えのあるまちの名前、懐かしいような、さみしいような気持ちで何度か文字をなでた。 ―空の向こうへ届くくらい、いつだって、まっすぐに生きていくと決めたから。 

 少し揺らいだ気分を引き戻し、同時に資料を勢いよく、
映画の撮影でシーンカットに使う「クラッパーボード」のように閉じた。
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