◆『どこまでキコエル』長編小説◆ 

□* 1 * 遅れてきた新入生
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志衣里は目を細めて、きちんと合わせた膝の方へ視線を移す。
窓からは西に傾いたオレンジ色の日差しが、肩まである少し色素の薄い志衣里の髪に粒となってまとわりつく。
普段の志衣里は元気で無邪気な笑顔が多く少し幼く見えるが、少し伏せた瞳で軽く微笑んでいる彼女はゾクッとする程大人びていた。

流れる車がスピードを緩め、やがてゆっくりと止まった。
現実に戻されるように

「志衣里様、到着いたしました。」

と運転席の男に低い声で言われ車のドアが開けられた。
車を降り、やっと呼吸をすることができた金魚のように、天を仰いで伸びをしながら大きくひとつ呼吸をした。
目の前にあったのは、イタリアに行くまで暮らしていた見覚えのある集合住宅だった。
志衣里はこれが自分を日本へ呼び寄せた人物である祖父という人間の気遣いなのか、それとも、ユーモアなのか考えてみたが、
やはり、彼女の性格では「そんなこと、どっちでもいいか」という結論に至った。
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