世界一初恋

□鍵
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大急ぎで電話をかける。数コールで繋がった。
「もしもし。」
「おいっ、桐嶋さん。あんた何した!?」
「いきなり何だよ。でけぇ声出して。」
桐嶋はいきなり怒鳴られた事に文句を言っている。
「何だよじゃねーよ!あんただろ!俺の部屋の荷物持って行ったの!ソラ太もそっちにいるのか?」
「何だ、もーわかったの?ソラ太なら元気にひよと遊んでるよ。」
それ聞いてはーっと溜め息をこぼす。良かった、取り敢えず一安心だ。
「今からそっちに行く。色々と聞かなきゃいけない事があるからな。」
「おお、待ってる。気をつけて来いよー。」
いつもと変わらぬ桐嶋の様子にドッと肩の力が抜けた。

桐嶋の家についてチャイムを鳴らすとおかえりなさいとひよが玄関を開けてくれた。
パジャマ姿でソラ太を抱えて少し眠そうだ。
「まだ起きてたのか?」
「うん、お兄ちゃんが来るって言うから待ってたの。」
ひよはわざわざ起きて待っていてくれたらしい。だがこれから起こるであろう桐嶋とのやり取りをひよに見せるわけにはいかない。
「ありがとな。けどもう遅いからそろそろ寝ないとな。」
「うん、お兄ちゃんの顔見れたからもう寝る。」
2人でリビングに入る。
「パパ、お兄ちゃんおやすみなさい。」
そのままひよはソラ太と共に自室に入っていった。

「おかえり。そんなとこに突っ立ってないで座れよ。」
ニヤニヤと桐嶋は座るように促してくる。
椅子に座りギロリと桐嶋を睨み付けた。
「おお、怖い。」
飄々とした様子から全く怖がってないのが伺える。
「大声出すなよ。ひよが寝たばっかりなんだから。」
怒鳴ってやりたかったが先に釘を刺されてしまった。確かにひよの寝ている側で大声を出すわけにはいかない。
深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「何て事してくれてんだよ。俺の荷物もここにあんのか?」
「着替えもスーツも生活に必要そうな物は取り敢えず持って来た。靴も何足か持って来てる。」
「意味わかんねーよ。家入って一瞬泥棒かと思ったじゃねーか。ソラ太までいなくなってたからあんたの仕業だって気付いて安心はしたけど。」
「ところで横澤。どうやって鍵開けたんだ?キーケースに鍵付いてなかっただろ?」
言われて大事な事を思い出した。
「そーだよ、鍵。いつの間に取ったんだよ。」
「昼間営業部に顔出したんだよ。お前いなかったけどな。机にキーケース出しっぱなしにしてただろ?そん時にちょっと拝借した。」
確かに席を外したがほんの10分位だったはずた。そんな短時間にやられていたとは。
「不用心だったな。で、どうやって開けたんだ?鍵が無ければ直ぐにここに来るもんだと思ってたんだが。」
「政宗だよ。合い鍵渡してるから持って来て貰った。」
その瞬間、それまで楽しそうだった桐嶋の顔が不機嫌な物に変わった。
「へぇ、高野に合い鍵渡してたのか。」
「あ、あぁ。学生の頃からお互いに合い鍵を持っている。」
「ならお前は高野の家の鍵を持ってるわけだ。」
「まぁ、出張の時とかソラ太預けに行ったりしてたから‥。」
何故か横澤が攻められている。納得がいかない。今怒っているのは自分のはずだと反論をする。
「今はそんな事どーでも良いだろ!俺が聞きたいのは何であんな事したのかって事だ!」
「なんかムカつくなー。」
「怒ってんのは俺の方なんだよ!納得出来る理由を言いやがれ!」
桐嶋は仕方ないといった様子で漸く理由を話しだした。
「ウチの鍵渡した時お前に言ったよな、通う位は出来るだろって。」
確かそんな事言っていた気がする。
「けど俺が声を掛けないとお前ここに来ないよな。」
それは誘われても無いのにこの家に来る事にまだ遠慮があったからだ。
「だから鍵がなければ横澤はここに帰って来るしかなくなると思って。」
桐嶋の言う理由に横澤は呆れしまった。
「まさかそんな理由で?」
「そんなって事ないだろ。通う位も出来ないんだったらもうここに住まわせるしかないだろ?」
「それで荷物とソラ太をここに持って来たのか。」
「そーゆー事。だから今日からここがお前の家だ。もう他の所に帰るのは許さない。」
開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろう。
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