GE2

□痛いって心が言うんだ
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GEとなった生活は、全てが今までとは違った。

要求される生死の境界線での戦闘、他者からの畏怖を込めた視線、殺伐とした雰囲気。
その一つ一つが、少しずつ精神を狂わせていく様な気がした。


「……おい、青パーカー。てめぇがもたついたせいで、予想より遅くなったじゃねぇか」

「知るか。てめぇこそ、少しは遠近両用を使いこなしたらどうだ。この下手糞」

「あぁ?やんのか、根暗パーカー」


煤けた服装と精神。
出撃ゲートから帰ってきた二人は、視線だけでバチバチと火花を散らす。
今にも殴りかかりそうな青年が洸、それに応じている青年がソーマ。
現在、トップクラスで関わり合いになりたくない二人として、アナグラ内ではそれなりに顔が知れ渡っている。
と、その間に誰かが割り込む。


「もう!!洸ちゃんもソーマも、喧嘩はダメって言いましたよね!!?」

「コイツが売ってくるから、買っただけだ」

「このパーカー野郎が気に喰わない」

「もう!!二人揃って、子供なんですか!!?」


兎に角やめなさい!!、と小さな背を精一杯伸ばして、二人の間で訴える。
その様子に、同行していたリンドウが淡く苦笑しながら、煙草の煙を燻らせる。


「今日も大変だな、カンナ」

「そう思うんでしたら、リンドウさんも止めて下さいよ!!」

「いや、それはお前に任せるよ。俺は、報告があるんでな」


よろしく、とヒラヒラ手を振りながら、受付カウンターへと消えた彼に、カンナが頬を膨らませる。
頼りになる隊長ではあるが、それでも飄々と交わされる事に不満がある。
それよりも、である。
今にも殴り合いを始めてしまいそうな、ピリピリを放つ二人へ、カンナがボソッと小さく呟いた。


「洸ちゃん、ソーマ……いい加減にしないと、シメるよ?」


たった一言。
だが、それはこの少女の本性を知っている人間にすれば、死刑宣告にも近い威力がある。
ビクッと体を震わせた二人は、少しふてくされた表情で、プイッと顔を背けた。

その様子に、全く……とカンナが溜息をつく。


「お帰りなさい、二人とも。予定より、遅かったんですね」

「この青パーカーがラストとちったせい」

「てめぇが、あのタイミングで誤射したせいだろ?」

「あれは誤射じゃない。きちんと狙って、てめぇの頭を吹っ飛ばそうとした」

「確信犯かよ」


フンッと鼻を鳴らす洸に、ソーマが舌打ちする。
とはいえ、殆ど無傷で帰ってきたのだから、流石といった所なのだろう。
二人のやり取りに、カンナが苦笑する。
と、キョトンと目を丸くした。


「ソーマ、イヤフォンはどうしたんですか?」


普段から、任務であろうともつけているモノが見当たらない。
ソーマは軽く洸を睨みながら、小さく舌打ちした。


「コイツが誤射したおかげで、ぶっ壊れた」

「ほぇ!?け、怪我はしてませんか?」

「平気だよ。帰る前に、リンドウさんが確認してた」


ケロリとなんでもない様に言う洸に、カンナは呆れた表情を向ける。
本当に、どうしてこんな事になるのだろう。
とはいえ、多分わざと誤射する事はないと思っている。
彼が他人を殺そうだなんて、思う訳がないと信じているからだ。

だが、この性格が難を呼んでしまう。


取り敢えず、立ち話も任務帰りの二人にはキツイだろうと思い、設けられたソファーへと誘導する。
丁度誰も座っていないので、使っても問題はないだろう。
カンナは二人が座った事を確認すると、机下の置いたクーラーボックスから缶ジュースを取り出し、二人へと渡す。


「……待ってたのか?」

「うん。それもあるけど、私明日リンドウさんとの演習だから、ブリーフィングもしたかったの」


ジュースはそれも兼ねてだよ。
そう笑う彼女に軽く礼を言い、プルを開けて煽る。
思った以上に喉が渇いていたらしく、すぐに半分程飲み干してしまった。
それは、隣に座らされたソーマも同じらしく、机に置かれた缶が軽い音を立てる。

とはいえ、相変わらずのフードのおかげで表情はそれ程上手くは読み取れない。


「少し、ターミナル見てくるけど……喧嘩したらだめですよ?」


めっ、と子供を叱る様に言って、カンナが席を外す。

ガキか……

そう内心呟き、再度ジュースを煽る。
もう、殆ど無くなった中身。

流石に、カンナが居なければ会話なんてする事も出来ず、二人の間で流れる共通の沈黙。
正直、洸はこの沈黙があまり好きではない。
何もせずにいると、自分が思った以上に聴力が良くなる気がしたからだ。
だから、聞きたくない話も聞こえてきてしまう。


―――おい、見たかよ


ほら、始まった、と洸は視線だけで辺りを見渡す。


―――あの悪魔、今死神と一緒にいるぜ?

―――うわ、最悪。俺、これから任務だってのに、縁起が悪いぜ。

―――あんなのと、よく話せるよな新型の奴。

―――従姉妹だってよ。うわ、彼奴にもなんか憑いてんじゃね?



投げ出される悪意、蔑む様な視線。
外部居住区時代にもよくあった事の為、歯牙に掛けるつもりもない。
所詮、奴らはそうやって他人を蹴落としていないと、不安で仕様がない可哀想な奴らだ。

洸にとって、日常過ぎる悪意に淡く笑みが浮かぶ。
勝手にほざけばいい。
あんな奴らに構う程、自分は暇ではない。




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