GE2

□血塗れカッター
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カツンッ、カツンッ、と静まり返ったフロアに、靴音が響く。
任務は問題なく終わり、報告等を兼ねてラボラトリを訪れた後、自室へ戻る。
慣れ親しんだ道は、この時間では不気味としか言い様がない。
薄暗い通路を歩き、やっと辿り着いた自室への扉に安堵の息をつく。

今日は思った以上に疲れたらしい。
取り敢えず、着替えを持って、シャワーでも浴びよう……


そう思い、扉のロックを外し、中へ入ろうとした瞬間―――


「っ!!?」


背後より伸びた手により、口を塞がれ、まだ暗い部屋の中へと連れ込まれる。
乱暴に閉まる音を聞くと同時に、強かに床へ背から叩き付けられ、息が詰まる。

真っ暗な中、分かる事は屈強な男達に押さえ込まれている状況のみ。


「お前が、蒼間カンナだな?」


押さえられた口元から、くぐもった声が響く。
抵抗する姿が愉しいらしい男達の口元には、優越感を感じさせる笑み。
気分は、完全に獲物を捉えた猛獣、といった所だろう。


「あんたに恨みはないが、ちょっとした頼みでな。すこぉし、俺達と楽しもうぜ?」


ゲラゲラと響くのは、下品な笑い声。
それに対し、キッと睨み付けてみるが、意味はない。
幾ら身を捻ろうとも、複数の男達に押さえつけられれば、抜け出す事は困難だろう。

と、馬乗りになっていた男が、ズボンのポケットから何かを取り出す。
闇に慣れだした目に移るのは、闇に反射する小振りのナイフ。
それを高々と掲げ、まるで生贄を捧げる司祭が如く、勢いよく振り下ろした。


「っ……」


ビリッと布が裂ける男。
上着がはだけ、露わになる肌。
それに舌を鳴らし…………はしなかった。
それどころか、全員がどよめき出す。

服に隠された豊満な胸囲………はなく、現れたのは見事なまでの胸板。
怯んだ瞬間、組み敷かれた方はニヤリと笑い、直ぐさま馬乗りだった相手へ頭突きをかます。
ゴキッと鼻骨が折れる音と共に、男は床へと崩れ落ちた。


「あ〜、折角作った服が台無しだぜ」


呆れた様に服を正す時に発した声は、鈴を転がした様な少女の声ではなく、声変わりを果たした青年の声色。
つまり、相手は男……

凍り付いた彼らに追い討ちを掛ける様に、パチッと付けられた部屋の明かり。
この部屋唯一の扉には、険悪な表情で拳を鳴らすソーマとリンドウの姿。


「ソーマ、殺るなら部屋を変えてからにしろよ?カンナの部屋が汚れる」

「分かった」


チッと小さく舌打ちしたが、最愛の少女の部屋が俗物の血で汚れる事は好ましくない。
ギロリと睨まれた男達は、完全に何が起こったのか分からず、未だに混乱している。
青年は軽く肩を竦め、自身の髪を掴む。
スルリと落ちた銀髪の下にあるのは、自前の焦げ茶色の短髪。
それに、男が震える指を指した。


「お、お前……」

「俺はカンナじゃねぇよ。従兄弟の九条洸」


バァカ、と舌を出し、洸が笑む。

カレルから連絡を貰った後、洸とカンナは入れ替わる事になった。
とはいえ、親しい人間が見れば、完璧に分かってしまう。
身長差と声音、体格は男女差が最も現れてしまうモノだ。

だが、親しい者達がソフィアに組するとは思えない。

それ故に、洸が考えたのは襲撃のタイミング。
人がいる時間帯は、難癖を付ける事は出来ても、直接打撃を与える事は出来ない。

勿論、女性とはいえカンナはGEであり、隊長を就任した実力者。
単独で襲ってくれば、絶対に返り討ちされる事くらいは、分かっているだろう。

なら、考え得るタイミングは帰還後。
しかも、人通りの少ない夜と推定し、任務後は必ず榊のラボラトリへ寄らせ、そこから洸が入れ替わる。

薄暗闇なら、身長差や体格に関しては、視界の悪さで誤魔化せる。
そして、カンナの自室に一番近いソーマの部屋で、男性陣には待機して貰い、物音がしたら、踏み込んでもらう手筈を整えた。

どうやら、保険は功を奏した様だ。


「さぁて………おっさん達。キッチリカッチリ洗いざらい吐いてもらいましょうか?」


ニヤリと笑みを浮かべ、拳を鳴らす。
悪魔にしか見えない彼の姿に、男達は互いに身を寄せて震え上がった。








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