GE2

□血塗れカッター
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☆★☆★

ラボラトリの一室。
カンナは寝間着の浴衣に着替えたまま、落ち着かない様子で本を眺めた。

もしもに備え、カンナは自室へ帰る事なく、榊のラボラトリに厄介になっていた。
ソーマとの関係が知られてしまった以上、諦めないのであれば、自分へ危害を加えてくる可能性がある。
洸とソーマの強い押しにより、カンナは渋々ここへ缶詰めにされる事となった。


はぁ、と小さな桜色の唇から、溜息が漏れる。
すると、近くで書類を読んでいた榊が顔を上げ、淡く苦笑した。


「眠れないのかい?」

「あ、えっと………皆が心配で……」


すみません、と苦笑する彼女の顔色は優れない。
榊はそうかい、と苦笑すると、部屋の奥へと消えた。
その様子に、カンナはキョトンと目を丸くする。

暫くして出て来た彼の手には、マグカップが二つ。
その片方を、カンナへと差し出す。


「ココアは飲めるかい?」

「ありがとうございます、博士」


優しく微笑む彼へ、カンナは礼を述べてから、渡されたカップを受け取る。
出されたマグカップに並々と注がれたココアは、優しい香りを立ち込ませ、カンナの鼻腔を擽る。

それを一口含み、カンナはほぅ...と息をつく。
少しだが、気分が解れる。

少し顔色が戻った彼女にほっとし、榊も自身用に淹れた珈琲を口にした。


「カンナくんは心配し過ぎじゃないかな?」

「そう、ですか?」

「私は観測者だからね。君の様子は、彼らが危険に合ってないか、心配している様にしか見えないよ」


興味深いね、と榊が微笑む。
その言葉に、カンナは目線を包む様に持ったマグカップの中身へ向ける。


「………博士は、私をどう思いますか?」

「どう、と聞かれると、返答に困ってしまうな。君が求める答えは、客観的にかい?それとも、主観的にかい?」

「観測者として、ではなく、ペイラー・榊として、です」


つまり、主観的という事だ。
榊が答えを口にする前に、あの……と控えめに響く彼女の声。


「私、最初は怖かったんです。誰かを愛するって、考えた事なかったので……。ずっと、大好きな友人や弟妹分達と、仲良く戦っていく……そう、思ってたんです」


だが、ソーマから告白され、悩んだ結果、彼の気持ちを受け入れた。
それを後悔はしていないし、今では曖昧だったモノはしっかりとした形で自分の中にある。


「でも………考えてしまいます。本当に、私で良かったのかな、とか、ソフィアさんみたいに、身分ある人と一緒にいた方が、ソーマは幸せになれるんじゃないかな、とか………今回の騒ぎだって、私がソーマの傍にいる事が原因で、洸ちゃんが危ない目に会っているんです」


大丈夫だ、と笑っていたが、大事な家族である彼に何かあれば、とカンナの心中は穏やかではない。
こんなに不安になるのなら、いっそ離れてしまえばいいのだろう。


「私……ソーマが好きです。彼を愛しているんです。だから………離れたくない。彼を取り上げられたら、私……っ」


気付けば、自分の方が彼に依存していた。
少しでも離れれば、寂しくて不安になる。
近くにいるだけで、言葉を交わすだけで、胸に嬉しさと温かさが灯る。
自分の拠り所である彼を取り上げる事は、心臓を抜き取られる事と同じ。

ポタリ、と涙が手に落ちる。


「ソーマに婚約者がいた、って知った時、凄く怖かったんです。私……ソーマに何もしてあげられなくて、外部居住区の外れ出身で……アラガミで……彼の足枷にしかなれなくて……」

「………そんな事はないさ」


優しく肩に置かれた手。
顔を上げた彼女に、榊は優しく微笑むと、伝う雫を指で掬った。


「あの子は、ずっと人を避けてた。自分の特異体質に悩んで、苦しんで……でも、君と出逢って、周りが変わりだした。あの子の世界を変えたのは、間違いなくカンナくんだよ」

「わた、し?」

「私…いや、僕自身の意見を言わせてもらうと、ソーマの隣は君以外考えられないよ。僕にとって、親友の忘れ形見であるあの子は、“息子”みたいなモノだ。そして、君も“娘”の様に思っているよ。ソーマの恋人として、ね?」


だから、泣くのはお止め、と優しく諭す言葉に、カンナは目許を拭うと、小さく微笑んだ。























☆★☆★


「おっさん、起きてるか?」


ノックも無しに入ってきた来訪者に、榊は苦笑した。
そこには尋問を終え、走ってきたらしいソーマが、軽く息を整えていた。

どうやら、相当心配だった様だ。





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