GE2

□血塗れカッター
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カンナは?と言いそうになる彼に、シィー、と口元へ指を立て、ソファーを指差す。
そこには、スヤスヤと眠るカンナの姿。

それに対してソーマは胸を撫で卸し、ふとその目許を撫でる。
起こさない様に優しくなぞったそこは、僅かではあるが赤く腫れていた。

ギロッとソーマが榊を睨む。


「おっさん………」

「誤解だよ。私が彼女を泣かせた訳じゃない。そうだね……強いて言うならば、ソーマのせいだよ」

「俺……?」

「カンナくん、君が思っている以上に参っている様だよ」


何に、と聞かずとも、察しはつく。
いきなり現れた婚約者と名乗る女性に、彼女の心中は荒れているのだろう。

元より、誰よりも仲間の為、ソーマの為と他人を優先する彼女だ。
きっと、自分のせいで……と、悩んでいるに違いない。

あどけない寝顔を晒しているが、それも今までは不安で眠れなかった筈だ。

そう思うと、申し訳ない気持ちで一杯になる。
自分が愛しているのは、この愛らしい少女だけ。
例え、どれだけ身分が良かろうと、どれだけ華やかに着飾ろうと、自分の気持ちが変わる事などない。


「ソーマ、あまりカンナくんに心配させてはダメだよ」

「分かってる」


彼に言われるまでもない。
自分から、彼女を奪おうモノなら、どんな理由であれ、その全てを力ずくで排除する。
サラリと流れる銀髪を一房絡め、優しく口付ける。

絶対に守ってみせる……

そう誓いながら……


「それで、黒幕を白状したのかい?」


自身の椅子に座り、微笑む榊の瞳には、怒りの色が見える。
普段から感情の起伏があまり見えない養父が、感情を読み取れる程露わにする事は極めて珍しい。

それ程、今回の騒動を観測者(スターゲイザー)として見る事が出来ない、という事だろう。

それに、とソーマは榊を見て思う。

彼はカンナを大切にしている節がある。

それこそ、彼に親しい者しか分からない程度の違いだが、それは珍しい事。
とはいえ、榊がカンナを見る目に色恋沙汰はなく、愛らしい娘を慕う様なモノだった為、ソーマも特には気にしていない。

そうでなければ、彼の元へ彼女を預けられる訳がない。


「あの女の差し金だった」

「ここの職員かい?」

「いや、外部だ。制服は闇市で手に入れたらしい。カンナに強姦紛いをして、その証拠写真を撮ってくれば、金は幾らでも出す、と言われたんだと」


それを聞いた時、怒りで頭がどうにかなりそうだった。
幼い頃に実験だと言って、強姦ギリギリまでされた彼女の傷は深く、やっと癒えだしたのだ。
それを、再度広げよう等と、誰が許すだろう。

怒りに任せて殴りかかろうとしたソーマを、リンドウが必死に押さえ、洸は淡々と尋問を続けた。
だが、その握られた拳が小さく震えていた事は、すぐに分かった。
彼は怒りを押さえ、情報を優先したのだ。
そのお陰で、相手の背景が鮮明に見えだしてきた。


「レイフォルテ家は、どこから仕入れたのか、俺がGEのオリジナルだと調べたらしい。クソ親父が死んだのを利用して、俺に近付き、GE作成の情報や俺の偏食細胞が欲しかったんだと」


クソッタレ、と毒づいたソーマの瞳には、寂しさが滲んでいる。
結局、彼に求められる事など、そんな事なのだろう。
ソーマ、と榊が呼び掛けようとした時、ふわりとソーマの頬を白い手が優しく撫でた。


「……ソーマ」

「起こしたか?」


うっすらと目を開けたカンナに、ソーマは困った様に顔を歪める。
それに応える様に、淡く微笑むと上半身を起こした。


「どう、しました?悲しそうな顔をしてます。誰かに、酷い事を言われましたか?」

「……何でもない」


プイッとソーマが顔を背ける。
こういう時の彼女は、異様な程に鋭い。
子供の様に拗ねる彼に、カンナは淡く苦笑して、優しく彼を抱き締めた。


「大丈夫ですよ。私はソーマの傍にいます。ずっと、ずっと………貴方が望んでくれるなら、何時までも」


だから、そんな悲しい顔しないで下さい。

そう囁くカンナに、ソーマは暫し茫然とし…………おずおずと手を彼女の背へ這わせる。
愛おしげな表情で彼を抱く彼女に、榊は優しい笑みを浮かべると、静かに退室した。

彼らを守る大人として、これ以上二人を傷つけさせない。
そう胸に誓い、榊は薄暗い通路を歩いた。






























血塗れカッター


(君を傷付ける刃)

(全てから守りたいけど)

(無力な僕は、君の身代わりに傷付く事しか出来ないよ)










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