GE2

□白雪となりし少女は
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視線を感じたのは、射撃する前だった。


既に朽ちた建物の屋上。
自身が倒さねばならなかった軍勢を殲滅し、カンナはスコープ越しに現状を見詰める。
遠距離型の神機適合者である者との共闘は、必然的に前衛へ回る事が基本。
それを忠実に守るエリナは必死にヴァジュラの動きに喰らいつき、何とかその固い皮膚へ傷をつけている。
危なっかしい手つきに、後衛であるコウタも気が気ではないようだが、それでもヴァジュラの家来かの様に群がるオウガテイルを彼女へ近付ける訳にもいかず、上手く銃弾を使い分けながら足止めをしている。
だが、まだ日の浅いエリナ一人にヴァジュラは強敵だと言ってもいいだろう。

カンナは風の動きと彼らの動きを予測しつつ、そのタイミングを待つ。
その時、ふとスコープの端に人影が見えた。
一般人だろうか、と思った瞬間、絶好の機会が訪れる。

ここを逃す訳にはいかず、カンナは一時思考を排除すると、すぐさま狙いを定めていたアラガミへと狙撃する。
放たれたレーザーは、思い描いた通りの軌道を辿り、見事にアラガミを打ち抜く。

その狙撃に、コウタは目を丸くしていたが、すぐさまカンナの方へと視線を向けると、待ってましたと言わんばかりに笑う。


「遅いよ、カンナ!」


その声に応える様に、カンナはその場から疾走し、ダンッと力強く床を蹴る。
ふわりと宙に浮く浮遊感が体を包むと、すぐさま着地の視線をとる。

ビィン……と足が少し痺れる感覚に、もう若くないなぁ、とちょっと場違いな事を思いながら、淡く苦笑した。


「ごめんね。少しコア回収に手間取ったの」


大丈夫?と聞きつつ、エリナの様子を注意深く見る。
特に目立った外傷はないが、それでも体力の消耗が激しい事は一目瞭然。
取り敢えず、とポーチから回復球を出すと、彼女へと投げ出す。
ぽぅ…と淡い緑の光が優しくエリナを包むと、彼女はほぅと息をついた。

どうやら、どこか痛んでいた様だ。
骨折ならば、変な癖が残る前に適切な治療が必要だろう。
だが、今はそうは言っていられない。
態勢を立て直したヴァジュラの怒声に、カンナは苛立ちにも似た瞳で睨みつけた。

今は、この邪魔者を排除し、早々に帰還する事が最優先だ。


「コウタ、エリナは後方より狙撃!前衛は私が引き受けます!!」

「了解!任せてよ!!」

「了解!!」


すぐさま、答えてくれる彼らが本当に有り難い。
背中は預けますよ?と微笑むと、すぐさまヴァジュラとの交戦を再開した。








































☆★☆★



討伐終了後、カンナはほぅと小さく息を吐いた。
やはり、現場を離れてからというもの、動きが昔に比べて芳しくはない。
それだけ、仲間達の懇意に甘えてしまってる証拠なのだろう。
そう思うと、多少なりとも罪悪感が胸に渦巻く。

研究者となり、沢山の問題から人々を救いたい……

そう思って学者となる道を選んでおきながらも、やはりずっと苦楽を共にしてきた仲間達の事が心配でこうして任務に同行してしまう辺り、きっと洸とソーマには呆れられている事だろう。

もう少しだけ……


せめて、エリナが誰の助けもなく、怪我する事なく戦える様になるまでは、こうして部隊の皆を手伝おう。
一人、研究という安全地帯で待機している自分が出来る、小さな我儘。
今だけは許してほしい、とカンナは自分に言い訳をして、ふとあの人影を思い出す。


あれは、確かに人影で……走りながら確認した時はその手に神機が握られていた。
つまり、あれは救援に来ていた部隊なのだろう。
なら……多分、最近発足された『ブラッド』の可能性がある。

カンナは勝利に燥ぐ二人に気づかれない様、こっそりとあの人影があった場所へと視線を向ける。
僅かに虹彩が金を帯び、常人よりもはっきりと視認できるようにする。











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