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□君に両手一杯の愛を
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これは、ソーマが榊へと提出してほしいと持ってきた書類なのだ。
上へ報告しなければならないのであれば、きちんとすべきなのだ。

だが、一体彼はこの書類のどこが気に食わなかったのだろう。
ちょっとした好奇心で、アリサは集めていた書類に目を通す。


「………これ」

「ちょっ!アリサ、読むな!!」


キョトンとした表情で書類を見詰める彼女の手から、状況に気づいた洸が慌てて書類を取り上げる。
だが、時既に遅し。


「……やっぱり、ソーマも洸の事を心配しているみたいですね」


呟いて、苦笑が漏れる。

彼が榊へ提出しろと持ってきた書類は、簡素な嘆願書。
その内容は、自分達のリーダーである九条洸の休暇を申請するものだ。
つまり、早い話が休めという事。
記入されていた署名には、敬愛する先輩のサクヤとリンドウ、そしてチームのムードメーカーであるコウタ、従兄妹のカンナ、後輩であるミゥの名前すら載っている。
これを提出すれば、確実に洸は休暇を取る事が可能だろう。

だが、彼はそれが気に食わないらしい。


「俺に休みなんて必要ない」


ムッとふくれっ面になりつつ、書類をダストボックスへと投げる。
だが、その直前でその書類はアリサが掴んだ。


「駄目です!私も、これには同意します」


厳しく叱咤する様な声でそういうと、すぐさま署名欄にペンを走らせる。
これで、殆どのクレイドル隊員の名前が並んだ。
後は、これを他の書類共々提出すれば、彼に拒否権はない。
自分がまとめていた書類毎胸に抱き、アリサは提出しようと歩き出す。

だが――――


「アリサ」


子供を叱る様な声と共に、体を抱き締められる。
少し顔を上げると、自分の肩に顎を乗せた彼の顔が間近にあった。
ドキッと鼓動が高鳴る。


「提出しなくていい」

「でも……」

「提出するなら、アリサが一緒じゃないと俺は無視して仕事するからな」

「………もしかして、一人で休みを取るのが嫌だって事ですか?」


拗ねた様に唇を尖らせる彼に、アリサが首を傾げる。
洸は特に反論する事無く、彼女を抱く腕に力を込めると、少しだけ視線をそらす。
だが、その目元辺りはほんのりと赤く、照れている事は明白で……


クスッとアリサが笑った。


「一人って、何もする事ないんだよ。俺、コウタみたいに趣味がある訳でもねぇし、一日中寝てるってのも落ち着かねぇし」

「そうですか」

「それに………休みの日くらい、甘やかしてほしいんだけど」

「……洸、ドン引きです」

「うわ、冷たい反応だなアリサ」


あまりにもはっきりとした声に、ムッと洸が顔を顰める。
まるで、子供の様な反応は3年前と全く変わらない。
彼らしいと言えば、彼らしい反応なのかもしれない、とアリサは自分を抱く腕に手を重ねて、優しく笑った。


「分かりました。それじゃあ、今度一緒にお休みとりましょう」

「お、随分素直な反応で」

「私も一緒に休まないと、洸が何時まで経っても休んでくれませんから。一応、カンナにも相談はしますよ?」


いいですね?と聞くと、彼は少しだけ困った様に顔を顰めたのち、小さく頷く。
部隊から二人も休みを申請するという事は、他のメンバーへの皺寄せも多くなる。
その皺寄せ緩和の為に、時折一時休止している従妹に、再度部隊へ戻ってもらうという約束になっている。

それを極端に嫌っている洸としては、自分が休むから手伝ってくれ、という事が少々気まずいらしい。


「洸、カンナも心配しているんですから」

「……分かってる。でも、取り敢えずは目の前の任務を片づけてくるかな」


再度抱きしめる腕に力を籠め、軽く彼女の髪に頬ずりすると、スルリとアリサから離れる。
背から消えた彼の体温に、少しだけ寂しさを感じるのは、贅沢な悩みなのだろうか。

ふと時計に目を向ける。
彼が出撃するまで、後1時間半。


「洸……やっぱり」

「やっぱ、やめた」


洸は一旦机の上に広げていた書類を纏めると、小さく呟く。
自分の言葉に被せる様に言われ、アリサは目を丸くする。
一体、彼は何をやめたのだろう。

困惑した表情の彼女に、洸はニカッと笑うと手招きする。
それに従い、彼の横に座る。

と、何の前触れもなく、洸はコテンとアリサの膝目掛けて倒れた。


「ちょっ!?洸!?」

「1時間後に宜しく」


顔を赤らめて慌てるアリサ等どこ吹く風。
洸はそれだけ言うと、目を閉じて眠ってしまった。

全く、勝手な事である。

スヤスヤと早々に寝息を立て始める彼に、アリサはため息を一つだけ零した。


「分かりました。おやすみなさい、洸」


優しく彼の髪を梳いて、苦笑する。
取り敢えず、彼は休むつもりになってくれたのだろう。

後1時間……

彼とこうしてのんびり過ごす事が出来る。

アリサは人知れず微笑むと、ゆっくりと彼の髪を撫でた。
































君に両手一杯の




(頑張る君が好き)

(でも)

(頑張り過ぎる君は嫌い)








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