GE2

□時限爆弾の行方
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「ミゥさんって、どうして隊長じゃないんですか?」


ふと、エリナが何気なく問う。

新たに発足されたブラッドとの大規模討伐作戦を無事に終え、ミゥはぼんやりと空を眺めていた。
少し先には、別地点で討伐を行っていたチーム1の隊長へ連絡をしているコウタの姿が見える。
自分達チーム2の隊長は、彼だ。
ミゥはそのサポートとして、こうして任務に同行しているに過ぎない。
何より、今回の任務は新人が5人も同席しているのだ。

そんな状態で、よくそんな事を実行しようとしたものだ、と内心呆れていた。

今回、参加したチームは三つ。
その内、自分が知っている人間はコウタを含め4人参加している。

全員が無事であればいいが……

そう思うのは、どうなのだろう。
少し不吉な事を考えている様な気がした。

そんな時、エリナが自分に聞いてきた。

何故、自分が隊長じゃないのか、と。

その言葉に、少しだけ不愉快そうにミゥは顔を顰めた。


「それって………コウタ君じゃ、隊長は務まらないとか、旧型が仕切るなぁとか、そういう意味を含んでるのかな?」

「え?あ、違いますよ!」


少し怒った様子の彼女に、エリナは慌てて首を横に振る。
元より、コウタの隊長就任では色々と揉めたという噂がある。
彼の実力は、誰もが認めるモノだがそれでも『旧型』という部分で、新人達の中には見下す様な考えを持つ者がいたのだ。

その件で、何よりも抗議したのは他ならぬミゥだ。

それを知っていて、そんな意味で聞いた訳ではない、とエリナは主張する。


「コウタ隊長はコウタ隊長で、実力者だって私も理解してます。でも、ミゥさんだって凄い実力者なんですよね?ずっと、第一部隊で前線に立ってたんですから」

「実力者、かどうかは、ボクでは答えられないよ。ボクだって、初めからこうして戦えた訳じゃないし」

「え〜〜!そうなんですか?」


二人の会話に、少し離れた所で警戒していたナナが、神機を手にこちらへ寄ってくる。
どうやら、彼女も警戒は退屈だったようだ。


「……普通、そうじゃないかって思うけど」

「だって、ヒナは最初から凄かったから………極東支部出身者って、皆そうなのかなぁって思ってたよ」

「ヒナちゃんは……特別過ぎるから」


なんと言っても、あの極東最強が育てた愛娘なのだから。
彼女が中途半端に、自分の娘を育てるとは思えない。
経験上は自分の方が先輩ではあるが、彼女の成長にはミゥ自身も危機感を覚えてしまう程に早過ぎる。

流石、の一言しか思い浮かばない。


「えっと……エリナちゃんの質問、答えてないよね?ボクが隊長にならない訳、だったかな?」


淡く苦笑して、話の軌道修正を行う。
ヒナの話題が始まっては、一気に横道どころか路地裏にまで話が行ってしまいそうだ。


「確かに、ボクもこの隊は長いからツバキさんに、自分の隊を持ってみないかって言われた事があるよ。でも、全部断っちゃった」

「え!?どうしてです?」

「ん〜………やっぱり、この隊に愛着があるからね。他の隊なんて、考えただけでも憂鬱になりそう」


あはは、と笑ってみたが、エリナとナナの表情は冷たい。
どうやら、これだけでは納得がいかないと言いたいらしい。
確かに、隊に愛着がある、だけでは出世を断ち切る理由としては弱いだろう。

はぁ、とミゥの口から溜息が漏れた。


「え〜〜………隊に愛着があるのも、ちゃんとした理由だよ?そうだなぁ……もう一つはコウタ君が心配だったっていうのも、少しある、かな」

「コウタさん、ですか?」

「うん。第一部隊って、元々はボクとコウタ君の他に6人いるんだけどね。エリナは分かるでしょ?」

「はい。一応、訓練の一環で同行させてもらいましたから」


エリナは少しだけ複雑そうに頷く。
彼女が任務を共にしていないのは、リンドウと洸位なものだろう。
前者はアラガミ化の後遺症の為、後者は多忙過ぎる為だ。
洸に関しては、ミゥからも彼らの演習に参加してあげてほしいと頼んでいるが、榊のスパルタ過ぎる任務で、未だに果たされる気配はない。


「へぇ〜。沢山いるんですね」

「うん。皆、ボクにとってはお兄さん、お姉さんみたいなモノだよ。でも、今まともに第一部隊として任務を熟しているのって、ボクとコウタ君、あと新人二人だけなの」

「……え?」


キョトン、とナナが目を丸くする。
つまり、他の6人は現在いないという事になる。
だが、そんなに一辺に部隊を入れ替える事があるのだろうか。
よく意味を理解できていないらしい彼女に、エリナがやれやれ、と肩を竦めた。


「私達、第一部隊にはもう一つ独立支援部隊って面があるの。独立支援部隊『クレイドル』」


知らない?と問う彼女に、ナナはあぁ、と納得した様に頷く。
最近、極東支部が力を入れ出した遠方支援。
その中心を担うのが、第一部隊なのだ。
それは、今まで前線で戦い、数多のアラガミとの戦闘経験を活かし、今までコンタクトを取った事のない未開の地へ支援物資の支給、人々の移住を手助けするといった仕事をしている。
とはいえ、ミゥが上げた6人の内1人は極東支部にて、科学者として仕事をしているのだが……。


「その仕事で、殆どのメンバーは遠征任務なの。でも、第一部隊は極東の守護だって仕事だしね。それで、コウタ君は残る事になったんだよ」

「コウタさんは、どうして行かなかったんですか?」

「ん〜……ご家族が極東にいるからって言うのが一つと……ぶっちゃけ、コウタ君以外新人教育に向かない人ばっかりなんだよね、ボクの仲間って」


あはは、と笑う。
半分は嘘だが、半分は本心だ。
カンナは現役を退いているし、クレイドルの隊長を務める洸は極東支部には残れない。
アリサは洸と共に仕事をするだろうと思っていたし、ソーマはあまり人を教える事に慣れていない。
ミゥ自身、散々洸とソーマに鍛えられたが、専ら原因追及や課題を出すのは洸の仕事で、ソーマは補助的役割が多かった。

リンドウは、理由を説明する事が面倒な状況で、サクヤは仕事をしているが何れは産休を取って、母親となるのだろうと思う。

そして……ミゥは自分が教える事に適しているとは到底思えない。
何より、自分の体質について知っているのは、古参組のみ。
よく任務を共にするエリナにすら、話した事はないのだ。

そんな自分が、彼らとの演習中にやむ追えず、『変わる』事があれば、その後の連携に支障をきたす様な気がしていた。

そう思うと、コウタが一番適していると言ってもいい。
それは、洸も同じだったらしく、コウタへ隊長としての発言権を委譲しているのだ。


「でも、私はミゥさんにも教える才能ってあると思いますよ?」

「私も!私って、ブーストハンマー使ってるから、経験者って誰もいないから、違うとはいえ大きなバスターを使うミゥさんのアドバイスって、凄くためになるなぁって思ってます」

「そう?ありがとう、エリナちゃん。ナナちゃん」


励ます様な後輩の姿に、ミゥは一瞬目を丸くしたが、直ぐに照れ臭そうに笑う。
今まで、最年少だった彼女にとって、誰かを指導する事や、誰かに甘えられるといった事は今までに経験のない事。
こうして、認めてもらえるというのは、やはり嬉しいのだ。






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