GE2

□先輩・後輩
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『……あの頑固者共め』

携帯端末越しに、彼の溜息が聞こえた。
第一部隊から『クレイドル』としての人員が裂かれて以来、ミゥがいた当時の第一部隊員はコウタとミゥの二人だけになった。
別に、彼らがGEを止めてしまった訳ではない。
彼らは彼らで、自分達の目標の為に今も頑張っているのだ。
そんな『兄』と『姉』の姿に、ミゥは心から応援したいと思っている。
だからこそ、彼らが心配しなくて良い様に、自分達の目標に向かって直向きに努力出来る様に、極東での事は自分が何とかしようと思っている。

が、それでも自分には限界がある事を、ミゥは誰よりもよく理解している。

自分は恐ろしく強い銀髪の女性みたいには慣れないし、今相談している『兄』の様に頼りがいがある訳ではない。
だからこそ、ミゥは一人で解決できないと思った案件は他の人に相談する癖をつけた。
一人で抱えた所で、事態は深刻になるかもしれない。
つまらない意地よりも、解決する事に全力を尽くしたい。
それなら、頼れるものに頼る事も大事である。

それこそが、ミゥの賢い所でもある。


「まぁ、ね。カンナちゃんの気持ちも分からなくもないかなって思ってる。可愛い義娘が血生臭い戦場に出たい!だなんて言われて、思わず猛反対しちゃったって、誰も責められないと思うよ」


そう、今回考えている事は自分の友人であり、姉兄と慕うカンナとソーマの義娘、ヒナについてだ。

彼女が両親(主にカンナ)の反対を押し切って、極東から飛び出してしまったエピソードは、極東のフェンリル職員で知らない人はいないという程に有名な話だ。

途中途中色々な尾ひれがついてしまっているが、それでも概ねの筋書きは一緒だ。

カンナが【猛反対】したから、ヒナは極東から【飛び出した】。

勿論、酷い尾ひれについてはコウタとミゥがきちんと修正を入れている。
元より、ヒナの事を悪く言う輩はいないし、カンナに関しても彼女の行いによって直ぐに違うのだと分かってしまう。

だから、それほど大変な事ではない。

しかし、だからといって放っておこうとは思っていない。


『それで、ヒナから連絡は?』

「一切ないよ。でも、現状は榊博士が調べてくれた。無事に黒い腕輪に適合して、今は実地訓練を熟しながら、『血の力』だっけ?それの覚醒を目指してるっぽいよ」


全く連絡を寄越さないが、それでも彼女の噂を収集する事は不可能ではない。
ヒナは【極東最強のGE】の愛娘なのだ。
彼女は理解していないようだが、彼女の戦闘力は既に5年はGEをやっているミゥ以上だ。
それを悔しいと思う反面、流石は彼女の義娘だと思ってしまう。


『で?カンナは苛々している、と?』

「えっと……ちょっとソワソワしてる、が正しいかな。カンナちゃん、怒ってるっていうより、寂しがってるって感じかな?」

『子離れ出来ないダメ親か、彼奴は』


全く、と溜息が一つ。
本当であれば、ソーマや洸に任せたい所ではあるが、二人には二人の仕事がある。


「洸兄ぃは、いつ帰ってこれそう?」

『あ〜………分からん。でも、3か月以内には、一回顔出せると思う。サテライトの様子も見ておきたいし、アリサが奮闘し過ぎてて過労していないか心配だし』

「アリサちゃん、頑張り屋だからね。うん、ボクの方でも気を付けてみるね」

『悪いな、ミゥ。コウタもしっかりしてるが、こういった事にはお前の方が機転が利くから、どうしても頼り過ぎちまうな』

「気にしないで、洸兄ぃ。適材適所くらい、ちゃんと弁えてるから。それに、コウタ君は新人教育で相当骨が折れてる……と、いうか、バキバキに砕けちゃってるから」


現在第一部隊は4名。
自分とコウタの古株メンバーに加え、エリナとエミールという新人が追加される事となった。
第二、第三部隊も現状としては古株が中心となってサテライト防衛に駆り出され、現極東は新人の宝庫といってもいい位になっている。
中には、何年もGEを務めてくれている人もいるので、一概に新人とは言えないが。

そんな中、一番奮闘しているのは洸から第一部隊の隊長を拝命したコウタだ。
ミゥも勿論フォローに余念がないが、それでもコウタの負担に比べれば微々たるものだと思っている。


『恩に着る。コウタは優しいからなぁ。あんまり厳しいのは出来ないんだろう』

「分かってる。今じゃ【仏のコウタ、鬼のミゥ】なんて呼ばれ方しちゃっててさ。本当に損だよ、ボク」


コウタが甘い分、ミゥが厳しくする。
その為、どうしても新人がミゥを避けてコウタの元に逃げるといった現象が起こる時がある。
元を正せば、自分が洸とソーマに習った事をそのまま還元しているのだが、どうにも新人達には楽観的な人間が多い。
いや、根性がないというべきか………


『あ、はは………最近の若い奴は軟弱だなぁ』

「いや、洸兄ぃだって若い部類でしょ?まぁ、中には私みたいな子供に指導される事に反感がある人もいるみたいだけど」


とはいえ、ミゥとて伊達に第一部隊にいない。
体術にしても、洸とソーマに鍛え抜かれているのだ。
例え相手が自分の2倍はあろう大男でも、遅れを取る事はない。
と、いうか、バスターを振り回す姿に大概が度肝を抜かれてしまっているようだが。


『ま、とにかく、だ。ヒナに関しては、俺から連絡を取ってみるよ。それで、少しは緩和されればいいんだがなぁ』

「うん、忙しいのにごめんね」

『いや、大丈夫だって。それに、こうしてミゥがまだ頼ってくれるのが、嬉しいんだよな。ほら、俺って極東支部所属なのに、ほっとんど支部にいないだろ?たまぁに、「俺の事忘れられてんじゃ」って思うときあるんだよな』

「そう思うなら、クマのキグルミで奇襲するの、ヤメテよね。ただでさえ、ショートを使う新型GEの兎キグルミがいるんだから………極東七不思議になってるよ、洸兄ぃ」


ショートブレードにスナイパーという出で立ちで、いつからいるのか分からない神機使い、キグルミ。
その中身を知る人間は一切おらず、食事をしている所も見たモノはいない。
一時期『カンナが変装しているのでは?』と疑った事もあったのだが、それは彼女とキグルミのツーショットが目撃された為、直ぐに払拭された。

そして、更に最近ではクマが仲間入りしたとの噂がある。
クマはロングブレードにブラストの神機使いで、洸が極東に帰還した時期と全て重なった為、彼の悪戯だろうという事は判明している。

が、それを知るのは元第一部隊の面々なので、現在としては極東七不思議というオカルトの仲間入りを果たしたのだ。


『はいはい。それ、アリサにもこの前怒られた。「ふざけてないで、帰ってきたならちゃんとした服装で返ってきて下さい!」って』

「まぁ、アリサちゃんとしては、滅多に敢え無い婚約者がクマの姿で極東支部のオカルト話の一員になってるなんて、悲しいを通り越して怒りになっててもおかしくないよ。洸兄ぃ、少しはアリサちゃんと連絡取り合ってよ」

『いや……一ヶ月に一回位は連絡してるぞ?』

「もっと頻繁に」

『いや、これ以上増やすとだな……会いたくなるじゃん』

「会いに来ればいいでしょ?洸兄ぃ、やろうと思えば、強硬手段で返ってこれるんだから。なんなら、ボクが使える手を全て総動員して、洸兄ぃを極東に戻すって事も出来るけど?」

『いや、それはダメだろ』

「うん、冗談」


ふふ、とミゥが笑う。
勿論、本気を出せば洸位、極東に戻す事は可能だろう。
だが、彼がこうして他支部へ出張しているのは彼の目標があるからだ。
だからこそ、こうしてミゥがあの手この手を使って無理に連れ戻そうと思っていない。
洸には洸の目標を叶えてほしいのだから。






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