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□君に悲劇は似合わない
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あれから、何日が経過したのだろう。
洸は眠くなる目を擦り、医務室で眠る少女を見ていた。
あの日以来、彼女は精神に異常をきたし、現在は強力な麻酔によって眠らされている。

最後に彼女が起きた姿を見たのは、あの感応現象の時。
彼女の過去を知ってしまった時だ。


「……新型ってのは、面倒だな」


自身の腕輪を見詰め、呟く。
自分の中に流れてきたあれが、本当に彼女の記憶なのだとしたら、彼女にも自分の記憶が流れた可能性がある。
そう思うと、正直彼女を顔を合わせたくない。

だが、気が付けば医務室へ趣き、次の任務の連絡が来るまで、ここで眠る彼女の横顔を眺めるを繰り返している。
まるで、もう一度彼女が起きる事を心待ちにしているかのように。


「……くだらない」


他人なんて、構っている暇などない。
一日でも多くのアラガミを殺し、奴らを晒し者にする。
それが、洸の『復讐』なのだ。
その為に……彼は神機使いになったというのに。

ふぅ…と息をつき、洸はその場を離れようと立ち上がる。
と、ヒョコリと見知った顔が扉から現れる。


「……カンナ?」

「あ、洸ちゃん」


お見舞い?と微笑む彼女に、そんな所と呟く。


「私もなの。アリサ、全然目を覚まさないから」


はい、とお見舞い品として持ってきたらしいジュース缶を渡され、素直に受け取るとプルを開ける。
ふわりと香るのは、芳醇な紅茶。
カンナのお気に入りだ。
それを一口流し込み、再度ベットへ視線を向ける。


「……カンナ、お前さアリサから何か見た事あるか?」

「え?……うん。多分、記憶の断片だと思うけど」

「そっか。そういえば、俺とお前とでは起きないよな」


感応現象、と言えば、確かね、とカンナが苦笑する。


「そう簡単に起きない現象らしいよ?榊博士に聞いたんだけど、新型同士の現象は珍しくて、多分弱っている時にしか発動しないんじゃないかって」

「弱ってる……」

「アリサ、苦しんでいるんだよ」


パキッとカンナが自分用の紅茶のプルを開け、一口飲む。
その表情は心配と疲労がありありと移っている。
多分、彼女もアリサの病室へ通っているのだろう。
それこそ、許可が下りてからずっと……


「ねぇ、洸ちゃん」

「ん?」

「……許せないよ。両親を失った女の子に、こんな酷い事させるなんて」


許せない……そう呟く彼女には、悔しさが滲む。
あの日……アリサが暴走して、リンドウを閉じ込めてしまった日。
素早く現状に対応したのは、カンナだった。
リンドウの指示に沿い、その場にいた全員に指令を飛ばして、撤退した。
その後、アリサとコウタを救助ヘリに乗せると、現場に舞い戻ったが……そこには、何もなかった。

塞がった道を、無理矢理爆発系バレットで粉砕し、全員でリンドウの行方を探したが、結局手がかりもなく、現在は打ち切り。

全員が悲痛に沈む中、現在も全員のフォローに飛び回る従姉妹の姿には、本当に驚かされた。

彼女だって、本当は悲しいに決まっている。
サクヤ同様、今すぐにでも飛び出して、リンドウの行方を捜したいだろうに。


「……カンナは大丈夫なのか?」

「ほぇ?……私?」

「いや……お前、リンドウさんの事慕ってただろ?」

「うん……別にリンドウさんだけじゃないよ?サクヤさんも、ソーマも、コウタもアリサも、勿論洸ちゃんも。私にとって、部隊の皆は家族だもん。誰かが欠けても、悲しいよ」

「……そっか」

「うん。でも、今は……洸ちゃんの方が参っているみたいに見える、かな」

「俺?」


キョトンとする洸に、うん、とカンナが頷く。


「悔しくて、やりきれないって感じ。何となくだけど、分かるよ。だって、一番付き合いが長いもんね、私達」

「悔しい……か」


ズキッと胸が軋む。
ふと、自分が何故ここへ入り浸る事になったのか、と自問してみる。

確か、入り浸る様になったのは打ち切りが連絡された日からだ。
リンドウを死んだと決めつける空気と、アリサを悪者に仕立て上げる状況に嫌気が差した。


あぁ、そうか、と何となく納得出来た。
自分は、逃げてきたのだ。
あのままエントランスや通路にいては、リンドウが死んだのだと、アリサが見殺しにしたのだと、自分が思ってしまうから。




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