GE

□偽りだらけの世界なら
1ページ/2ページ


最初の印象は、最悪以外の何物でもなかった。
普段から周りを拒絶した様な雰囲気、口を開けば乱暴な言葉の羅列。
喧嘩っ早いし、協調性はない。

一人でなんでも熟してしまう様な人。

それが、アリサが九条洸という同期に対しての認識。

だから、昔の自分なら今の状況に戸惑っていただろう。


「アリサ!!そっちにいったぞ!!」

「はい!!」


逃走しようとするシユウの足目掛け、力一杯刀身を叩きつける。
途端に上がるシユウの苦痛に歪む咆哮と、血の様な赤い液体。
すぐさま反撃しようとするシユウの腕。
それを、間髪入れずに後方で構えていたカンナのレーザーが射抜く。


「くたばれ、羽野郎!!」


そこへ、助走を十分につけた洸の刀身がシユウの頭部から一直線に切断した。
僅かに響く咆哮。
だが、それはシユウの倒れる音と共に消えた。


「ナイスアシスト、カンナ」

「えへへ……前より上手くなったでしょ?」

「上々。後は、俺の頭目掛けて、アラガミバレット撃たなきゃ、合格点だな」

「むぅ〜〜!!!わざとじゃないもん!!」


ニシシとからかう洸に、カンナが頬を膨らませる。

自分が目覚め、復帰して以降、彼らはこうして自分の任務の合間を縫って、アリサの任務に同行してくれる。
始めは、足が竦んで全く動けなかったが、彼らは怒る事なく、自分のペースでいい、と言って付き合ってくれている。

今はカンナも一緒だが、彼女が不在の時でも洸が同行してくれるのだ。

……彼が、こんなにも面倒見がいいとは思わなかった。

アリサはシユウの残骸を神機に喰わせ、コアを回収する。
これは、自分の仕事だ。
任務に出る以上は、と洸に要求された仕事なのだ。
それを終わらせ、アリサが二人に合流する。


「お待たせしました」

「どう?なんか、レアっぽいの出た?」

「いえ……いつも通りです」

「そっか……残念だったね。でも、次はいいのが出るといいんだけど」


カンナが淡く苦笑する。
と、ピピッと無機質な音を立てて、端末が震える。
彼女が不思議そうに、それを出すと、もしもし、と通信を繋いだ。



「あ、コウタ。どうしたの……ほぇ!!?う、うん。ごめんね。今アリサと洸ちゃんと一緒に、贖罪の街なの。えっと……うん、分かった。コウタは先に向かって。私、装甲車で向かうから」


ごめんね、と再度謝り、通信を切る。


「どうした?」

「あはは……コウタとコクーンメイデン討伐の約束、忘れてたの」

「お前なぁ……」


やっちゃった、と苦笑する彼女に、洸は呆れた様に顔を顰めると、ポケットから鍵を取り出し、彼女へ投げ渡す。


「ヘリの要求は、俺がやっとく。気を付けろよ?」

「うん。洸ちゃんも、アリサの事お願いね?」

「分かってる」


ほら行け、と追い払う仕草を取る。
カンナはまたね、とアリサに手を振り、慌てて装甲車まで走って行った。


「……すみません。私がお願いしたばっかりに」

「アリサが気にする事ねぇよ。あれは、カンナのミス。まぁ、コクーンメイデンに後れを取るとは思えねぇし、大丈夫だろ」


もし、手こずる様なら助けに行けばいいだけだし。

そう呟いて、ニッと笑う。
そういえば、彼がこんなに笑う様になったのも、自分が眠り続けて以降だ。
その間に、どんな心境の変化があったのか、アリサには分からない。

ただ……彼が自分に近い過去を持つ人間である事は、彼自身から聞かされた。
そして、カンナからずっと彼が自分を見守ってくれていた事も……



「ヘリ来るまで暇だな……少し歩くか?」

「え……は、はい!」


よいしょ、と神機を担ぎ、歩き出す彼の後ろを慌てて追いかける。

別に、彼との任務がなかった訳じゃない。
同期で新型、という事もあり、リンドウと共に同行する事は、二日に一回のペースであった。
その殆どが彼の独壇場であり、時にはアリサが加勢する事に気をよくしていない姿も見た。

しかし、今はああして声をかけてくれたり、アリサが危なくなると、すぐさまフォローへ回ってくれる。
この変化に、正直……今でも戸惑いを感じている。
カンナは元々、誰に対しても優しく、よく笑う女性だった。
それを不謹慎だと思った事もあったし、彼女の優しさが鬱陶しいと思ったりもした。


だが、その優しさに自分は救われた。
彼女は自分のことを一切責めなかった。

彼だってそうだ。
自分はリンドウを見殺しにしたのだ。
それは、誰からも責められる事だと思うし、例え催眠によって引き起こされたとしても、それに打ち勝つだけの精神力を持てと思う。

結局、自分の弱さが部隊の大事な隊長を『殺した』

それは、どんな言い訳をしようとも変わらない。
そう、変わらない筈なのに……





次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ