GE

□壊された音
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「あの、すみません」

「……はい?」


突然かけられた声。
カンナは不思議そうに振り返り、首を傾げた。
そこにいたのは、白衣を着た女性。
なにか?とカンナは笑顔で問う。


「はい、実は榊博士のラボを探しているのですが」

「それでしたら、医務室を過ぎて真っ直ぐの突き当りですよ。新任の方ですか?」

「はい。北欧支部からこちらに……」


そうなんですか、とカンナは微笑む。
途端、ズキンと頭の奥が痛む。
ん、と顔を顰めた彼女に、女性は大丈夫ですか?と首を傾げた。


「あ、大丈夫です。最近、働き詰めだったから、疲れたんだと思いますし」

「そうですか……おや?その腕輪は、GEの方ですか?」

「はい。第一部隊所属、蒼間カンナと言います。一応、これでも隊長を任されています」


宜しくお願いします、と微笑むが、頭痛は酷さが増すばかり。
それは、まるで警鐘を鳴らしているかの様だ。
蒼間……と呟く女性。
その口元には、淡い笑みが映る。
それが、余計にカンナの不安を煽った。

……立ち去った方がいい。

本能がそう告げてくる。
心臓がゆっくりと加速していく感覚を、カンナは誤魔化そう無理に笑う。


「私、まだ仕事がありますので」


それでは、と立ち去ろうとした。
と―――――


「貴女、月(ユエ)さんの娘さん?」

「……え?」


振り返った先
女性はニィ……と笑った。

































☆★☆★



「博士、腕輪の反応出た?」

「いや……一向にレーダーに捕まっていないよ」


すまないね、と苦笑する榊には、ありありと疲労の色が見える。

カンナの消息が不明になって、既に三日が経過した。
何時までも集合場所に来ない彼女を心配して、アリサとソーマが様子を見に行った際、彼女の管理していた書類と髪留めがベテラン区画に散乱していた事。
そして、神機が無事に管理されている事。

これらから、彼女がいなくなったのは任務的なモノではない事は容易に想像出来た。

あまりにも急な出来事だった為、任務での欠番を洸がカバーし、榊へと捜索願を出した。
唯の杞憂なら、それでいい。
もしかしたら、急に他の仕事が入って、今は留守にしているだけなのかもしれない。
そんな淡い期待をしていたが、それは無意味な妄想でしかなかった。


「贖罪の街、鎮魂の廃寺、鉄塔の森……ここは全部捜索したよな?」

「私達の班は、煉獄の地下街と愚者の空母を探しましたが……」


アリサが静かに首を横に振る。
現在、コウタとミゥ、そして雨宮夫妻が嘆きの草原を捜索してくれているが、そこにも見つからない可能性がある。
そうなると、最後は……


「……エイジス、だな」


静かなソーマの声に、二人は表情を硬くする。
そこは、前にシックザール前支部長の野望を阻止した場所であり、最近ではリンドウを救出した場所。
なんの因果かは知らないが、そこにはよくないモノが集まっている様だ。

行くしかないか、と洸が頭を乱暴に掻く。

正直、この三日間まともに寝た記憶はない。
それは、アリサとソーマも同じ筈だ。
任務を予定時間より早く終わらせ、撤退時間より長くその場に居座るのは、精神を著しく削る。

しかし、そうも言ってられないし、彼らも休めと言って、大人しく休むとは思えない。

行くぞ、と気合を入れ、研究室から出ようとした。

その時、ピピッと無機質な音が部屋に響く。


「アリサ?」

「い、いえ。私じゃないです。洸は?」

「いや、俺のでもない」


其々が、自分の端末を確認する。

自分達ではないなら……

視線の先には、無言で端末を握りしめるソーマの姿。
その様子に、アリサが首を傾げる。


「ソーマ?出ないんですか?」

「……カンナからだ」

『っ!!?』


驚きを含んだ声音に、全員の表情が固まる。
出ようとしたソーマを止め、洸が榊へ向き直る。


「なんか、音声を俺達にも聞こえる様に出来ませんか?」

「それなら、そこのコンセントを端末の下に差し込めばいい。スピーカーから声が聞こえる筈だ」

「了解」

ソーマ、と呼びかければ、彼は示されたコンセントを端末へ差し込む。
全員の表情に緊張が広がる中、ソーマは小さく頷くと端末のボタンを押した。


「……おい、カンナ」


スピーカーの向こう側からは、ほぼ何も聞こえない。
怪訝そうに顔を顰め、もう一度呼びかけようとした。
その時―――――


『た………て……け………』

「カンナ……?」

『たす……て………助け……て……助けて……ぇ』

「おい!!どこにいるんだ!!?おい!!!」


ブツッと派手な音を立てて、通話が切れる。
微かな音ではあったが、あの声は確かにカンナの声だった。
そして、その声が助けを求めた事も事実……





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