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□指を絡めて嘘をつく
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全然寝付けない……
カンナは何度目かの寝返りを打つと、小さく溜息をつく。
目の前には、真っ白でふわふわと手触りのいいウサギのぬいぐるみ。
不安な心を押し込めたくて、カンナはそれに手を伸ばすとギュッと抱き締めた。
正直、自分には色恋沙汰は向いてないと思う。
どうすればいいのか、どう答えればいいのか、どんなに思考を巡らせようとも、その答えは深い闇の中。
だが、明日までには……ソーマがこの部屋を訪れるまでには、結論を出さねばならないのだ。
はぁ、と吐息が漏れる。
何気なく手を伸ばせば、固いモノが手に当たる。
それを掴み、自分の目の前に持って来れば、それが端末である事が分かった。
新品同様のそれは、無くなってしまった前のモノの換わり。
そういえば、ソーマの端末に連絡が入っていたそうだが、いったい誰が入れたのだろう。
自分に、そんな記憶はない。
だが、そのおかげで自分はこうして無事にこの部屋に帰ってくる事が出来た。
……足はアラガミ化してしまったが。
ゆっくりとボタンに手をかけ、慣れ親しんだ名前に電話を掛ける。
夜中なのだから、きっと寝てしまっているだろう。
迷惑だろうか、と考えていた時、はい、と少し眠そうな声が聞こえた。
「……洸ちゃん?」
『どうした?お前が、こんな時間に連絡してくるなんて、珍しいな』
ふわぁ……と欠伸混じりに、洸が言う。
やはり、寝ていたのだろう。
少し申し訳なくなって、なんでもないよ、と電話を切ろうとした。
が、待て、と制止される。
『どうした?』
「何でもないよ?」
『馬鹿。何年一緒に暮らしてると思ってんだ?声で、大体の心境位分かるっての。それで?今回のお悩みはなんだ?』
どうやら、お見通しの様だ。
だが、どう説明したらいいのだろう?
言葉に詰まり、思考を巡らせる。
「……洸ちゃんは、どうしてアリサが好きになったの?」
突然の質問に、ん?と怪訝そうな声が受話器の向こうから聞こえた。
だが、何かを察したのか、成程な、と小声で納得した様に呟く。
『ソーマが遂に告白したか?』
「……知ってたの?」
『知らないのは、お前位だと思うぞ?』
おどけた様な言葉に、う……とカンナが言葉を詰まらせる。
誰が見ても、彼のカンナに対する態度は違うのだ。
それを分かっていれば、彼の心境位何となく察しが付く。
そうか、成程な、と笑みを含む声に、頬を膨らませる。
「洸ちゃん」
『悪い悪い。えっと……なんで、アリサなのか、だっけ?』
「うん……」
『そうだな……なんで、と言われても、俺にも分からん』
「……でも、好きなんでしょ?」
『まぁな。でも、それを言ったら、俺はお前やソーマ、コウタだって好きだぞ?』
「でも、同じじゃないでしょ?」
『実を言えば、それも分からん』
まるで、はぐらかされているみたいだ。
飄々とした洸の言葉に、カンナはむぅと唸る。
すると、あのな、と洸が苦笑した。
『人を好きになるって、そういうモノだと思うぞ?お前は真面目過ぎる』
「でも、大事な事だよ?」
『大事だから、だよ。それこそ、自分の直感信じないでどうする?』
「直感?」
『そ。……俺がアリサの傍にいたいと思ったのは、彼奴が俺と同じだからとか、助けなきゃいけないとか、そんな使命感や責任じゃない。ただ、純粋に傍で見守っていたいと願ったんだ。あの細い肩が潰れない様に、その道が誰かに邪魔されない様に。ただ、それだけ』
優しさを孕んだ言葉。
それが、彼の本心であり、愛情の表し方。
自分はどうだろう、と問う。
彼の為に、自分はどう思うのだろう。
ねぇ、と電話越しに、洸へ問う。
「誰かを選ばなきゃいけないって、とても重いよ」
『選ぶ必要あるか?』
「え……?」
『俺は、アリサを選んだとは思ってない。だって、さ。俺がアリサの傍にいる事を決めて、それを彼女が了承した。だた、それだけなんだ』
だから、悩むな。自分を信じろ。
その声は、まるで妹を励ます兄の様。
少しの間キョトンとしてしまったカンナだが、そっか、と淡く苦笑した。
少しだが、胸が軽くなった気がする。
「ありがとう。ごめんね?こんな時間に」
『別にいいよ。お前が俺に恋愛相談なんて、貴重過ぎる体験だしな』
「むぅ……洸ちゃんの意地悪」
『……ゆっくり考えろ。少しでも思った事があるなら、それがカンナの選んだ道で、お前の願いだよ』
おやすみ、と言う言葉と共に、通信が切れる。
再び静寂が部屋に広がったが、もう暗い気持ちはなかった。
明日まで、後7時間。
それまでに、ゆっくりと考えよう。
彼の言う通り、少しでも願ったならそれが自分の『答え』なのだから。
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