GE
□甘い嘘を頂戴?
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「とりっく、おあ、とりーと!!」
「おう!ハッピー・ハロウィンだぞ、ガキ共」
ワシャワシャと乱暴に撫でれば、キャッキャッと燥ぐ声。
その小さな手にお菓子を握りしめると、友人と共にどこかへと走り去っていった。
その姿に、手を振ると彼は小さく笑った。
「最近のガキは元気がいいな」
「洸もはしゃぎ過ぎじゃないですか?」
クスリと隣にいたアリサが笑う。
今日は年に一度のお祭り、ハロウィン。
極東支部で働いている以上、GEも職員も関係なく駆り出され、外部居住区の子供達へお菓子を配る日。
洸も普段は絶対に持たない様なファンシーなバスケットを手に、呪文を唱えた子供達へとお菓子を配っていた。
勿論、それは彼と行動を共にしていた彼女も同じ。
普段の学生服をアレンジした衣装ではなく、背中に蝙蝠の小さな羽のついた衣装は、作成者曰く小悪魔なんだとか。
逆に、洸には耳着きカチューシャとふさふさ尻尾のついた衣装。
これは、狼男のイメージらしい。
他のメンバーも、今日の為だけの衣装に身を包み、現在は各場所でお菓子を配っている事だろう。
「でも、祭りって楽しいモノだろ?」
「……確かにそうですが、そんな様子ではどちらが子供か分かりません」
「う……」
言葉を詰まらせ、唇を尖らせる彼。
その仕草は、実年齢より幼く見える。
普段から、隊長の参謀役として作戦面でチームを引っ張る彼は、誰が見ても年齢以上の能力を発揮した“大人”だと、誰もが思うだろう。
だが、アリサの前では年相応の青年でしかない。
二人でいても、普段通りの大人ではあるが、こうしてふと見せる幼い仕草は、本来の彼である様に見えて、アリサとしては嬉しい。
自分だけが未だ子供なのかも……
そういう不安が、彼女の中でない訳ではないし、荒れていた頃とは違い知的な印象の強い彼は、今やアナグラ内で注目の的。
自分達の関係を知らない女性からは、熱烈なアプローチを受けていると、昔ヒバリが教えてくれた。
自分達の関係を知っている彼女は、アリサが不安にのめり込まない様に、という気遣いで一応伝えようと思ってくれたのだろう。
この事を、彼に聞いてみると全て断っているよ、と淡い苦笑と共に返答が返ってきた。
別に疑うつもりはないし、彼が自分以外で長く共にいるのはカンナ位。
よく一緒にいるソーマやコウタからも、そんな不安要素のある話を聞いてはいない。
………いや、一回だけ勘違いで聞かされた事はあったが。
「……アリサは楽しくないのか?」
「え?」
「いや……考え事してるみたいだったから」
疲れたか?、と心配そうに見る彼に、自分がどれだけ思考の海に溺れていたのかを知る。
どうにも、自分は考え込む癖があるようだ。
大丈夫ですよ、と微笑んでみたが、彼はどこか納得しかねている様だ。
「考え事もいいが……ほっとかれると、拗ねる」
「洸が拗ねると面倒じゃないですか」
「面倒って……まぁ、我ながら女々しいというか、ヘタレというか」
でも、うぅん、と一人で呟きながら、彼が俯く。
どうやら、凹んでしまったらしい。
きっと、ここがアナグラであったなら、彼は平然と『酷いな』とだけ言って、曖昧に苦笑するのだろう。
だが、今は自分との二人っきり。
大人へと偽る仮面は、今だけお休み。
「まぁ、いいや。兎に角、アリサがどうしたのか、が聞きたい訳だし」
「……そこに戻るんですか?」
「当たり前だろ?アリサ、考え出すと直ぐにハマるとこあるんだし。ちゃんと、話してくれないと、俺もどうしたらいいのか分からん」
だから、話してよ。
そう微笑む彼に、うっ、と言葉が詰まる。
流石に、君が浮気しないか不安になりました、なんて言ったら、絶対に怒られる。
怒られるというか、拗ねるというか……
色々面倒になってしまう事くらい、アリサには容易に想像が出来た。
前に、こんな事を言ったら『なら、分かる様にするまでだ』と、次の日は歩く事すら出来なかった。
……あれを繰り返す訳にはいかない。
「えっと……洸は、人の目を引くなぁと思いまして」
「ん?そうか?」
「そうじゃないですか。エントランスでも、沢山女の子から視線を集めてるの、私よく見ますよ」
少しだけ暈して、考えていた事を言う。
内容としては、考えていた事と大差ない。
これなら、嘘だとは思われないだろう。
洸は、う〜ん……と手を顎に当てて、少しだけ考える仕草を取った。
「別に、珍しい容姿でもないし、荒れてた時の事があるから、それで警戒されてんだろ」
「そんな事ありません!!洸は十分カッコイイですから!!」
「……そうか?これ位なら、他にもいるだろ?タツミさんとか、カレルとか」
「それでも、です!!洸は少しくらい自分の容姿を気にして下さい!!」
語調を荒げ、詰め寄ってきた彼女に、洸は目を丸くしながら『ごめんなさい』と謝ってしまった。
何が怒られているのか、全く分かってないが、それでも謝るべきだと無意識に考えてしまったのだ。
それほど、彼女の迫力は凄かったのだ。
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