長編
□想い 〜さいかい〜
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「本当に痛みを消そうなんて、考えてない」
一騎の言葉に、来栖は少し、怒ったような、戸惑ったような口調で、こういった。
「俺の、役目は君たちに選ばせることだよ!」
それにも一騎は臆することなく、一歩前に踏み出す。
「お前は何を選ぶんだ?」
「!?」
一騎の言葉に声を詰まらせる来栖。彼の胸、心の蔵がある位置に、一騎の指が置かれた。
染色体を持たない、人を模した人形。それでも、その鼓動を、一騎ははっきりと感じた。
そして、その口を開く。
「『おまえは、そこにいるのか?』」
その問いは、フェストゥムの問いと重なった。それは、来栖に大きな衝撃を与えたのだった。
「おれ、は……」
――――
日を追うごとに、戦いは激しさを増していった。激しくなればなるほど、消耗も激しくなる。もはや島には、戦いが始まる前の半分以下の自然しか残されておらず、地形も変わっていった。
マークツヴォルフの射撃で、金色の敵は崩れ落ちる。其処に、広登の駆るマークフュンフが駆け寄ってきた。
「大丈夫か!?芹!」
広登の掛け声にも、彼女は応じず、芹は呆然とした表情で、虚空を見つめていた。
「なんていってるか、やっとわかった……」
「芹……」
芹は、以前よりフェストゥムが、ダメージを受けたときに発する、声にならない声を聞き取って、何を言っているのかを知ろうとしていた。剣司やカノン、真矢を含めたパイロット全員が築いていない中で、彼女はただ一人、それを聞こうとしていたのだ。
「いたい。たすけて」
『いたい。たすけて』
芹は、その声を訊き、独り言のように半濁する。その目には涙が浮かんできていた。
「なら……楽にしてやれよ!」
広登はまだ、ぼろぼろになりながらも、消えない敵に止めを刺す。それは苦しんでいるものに対する慈悲なのか、傲慢なのか。
「あ、あああ……あああああああああ!!」
消滅するフェストゥムを見てか見ずか、時をおかずに芹は事線が切れたような泣き出した。
「な、泣くなよ……」
いきなり泣き出した芹に戸惑う広登。それでも、芹は泣き止むことはなく、その声は大きくなってゆく。
「蒼い穹が見たいよぉ……!」
それは、この島にいる全ての人間が想うことであった。一分、一秒でも空を被う、雲を振り払い、真っ青な大空を夢見るのだ。
はたして、その空を見ることが出来るのはイツなのだろうか―――